フォルマ・フォロ セミナー第14回

フォルマ・フォロ セミナー第14回
「当事者として建築へ向き合う」

講師:宮崎 晃吉(建築家/株式会社HAGI STUDIO 代表取締役)
日時:2018年4月21日(土)16時-18時
会場:武蔵野美術大学デザインラウンジ(六本木ミッドタウンタワー5階)
対談 : 小津 誠一(日月会会長、有限会社E.N.N.代表、23期)
司会 : 石井 健(日月会副会長、ブルースタジオ執行役員、26期)

まずはフォルマ・フォロセミナーの企画者である鈴木主任教授の挨拶から。

第14回フォルマ・フォロセミナーでは、昨年のブルースタジオの大島さんに続き、リノベーションという手法で建築の再生やまちづくりに活躍するHAGISOやまちやどhanareなどを自ら経営もされている宮崎さんをお迎えしました。
参加者してくださったのは40名ほど。

宮崎さんと小津会長は、シンポジウムで対談したことからのご縁。そこから交流を深め、リノベーション関係の集まりなどでもご一緒する機会が多く、今回ご登壇いただくことができました。セミナー登壇者に武蔵野美術大学以外をご卒業された方をお迎えするのは初めてなので、宮崎さんはそこをしきりに気にしていらっしゃいました。2008年に東京藝術大学大学院修士課程を修了され、磯崎新アトリエ勤務を経て独立。現在に至るお仕事を始められました。経営されている まちやどhanare(はなれ)は現在発売中の雑誌『Pen』の表紙を飾っています。

セミナー前半では、宮崎さんが谷中の町に深く関わるようになった、きっかけと経緯をお話くださいました。

宮崎さんが学生時代を過ごされた1955年竣工の木造アパート「萩荘」は東日本大震災をきかけに解体することになりました。2012年住人が行った建物の葬式「ハギエンナーレ」に3週間で1500人が来場。その実績をうけて改修を大家さんにご提案したところ、OKをいただき、『最小文化複合施設』HAGISOが誕生。オープンイベントで救急車やパトカーが出動したり、開業当初は客足もなかなか伸びず色々とたいへんだったそうです。
それでも6カ月を過ぎた頃から来場者も順調に増え、メディアで紹介される機会も増えて、HAGISOは地域の核として育っていきました。

2015年にはご自身の海外体験をもとに、宿泊施設hanareを開業。空家として10年放置されていたアパートをリノベーションしてつくったホテルは「まちに泊まろう!」をコンセプトにし、すでに地域に存在しているコンテンツをネットワークさせ、まち全体の新しい価値を創出しています。
宿泊者はまちに飛び出し、まちを体感することで価値を見出します。
すべてがそろっている施設に宿泊する「付加価値」ではなく「負荷価値」を楽しむ。

HAGISO、hanareの実績をうけて町の人から信頼され、仕事の幅やネットワークも着々と広がっているそうです。「まちあかり舎」という活動も立ち上げ、建築の仕事だけではなく、今ではこれらの施設やネットワークの中にいる人々の日常をデザインしているのかもしれない・・・と結んでくださいました。

後半は、宮崎さんと小津会長とのトーク。
小津会長は阪神大震災がきっかけで設計事務所を辞めて、建築をやりながら飲食や不動産業も生業としているということで、東日本大震災をきっかけに磯崎新アトリエを辞めて現在の幅広い仕事へと展開させている宮崎さんにたいへん共感するところがあるのだが、そもそもなぜ美大で建築を学ぼうと思ったのか・・・という話題に。

尊敬する先輩の影響で代ゼミの造形学校に通ううち、そこがあまりにも面白くて美大をめざしたという。在学中に谷中のまちづくりに関わったことがとても印象的で、建築以前のそもそもの前提、仕事をつくるところからデザインするというところに興味をもって今に至っている。モノよりも人のほうがお宝で、それが連鎖していくことを一番大事にしながら進んでいる・・・と。20年近く世代が違いながらも、これからの建築家のあり方、仕事への関わり方などについても語られた対談となりました。

終了後、会場での懇親会。松家さんによる乾杯の後、参加者の皆さんとの交流に盛り上がりました。そして別会場での二次会。夜遅くまで語り合った六本木の夜でした。

今回も大学のカリキュラムスケジュールとの兼ね合いで、現役生が参加しづらかった点が悔やまれます。宮崎さんの活動拠点である谷中に赴いて、活動の一端やまちの動きを感じてもらえればと思います。

ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
デザインラウンジのスタッフのみなさま、たいへんお世話になりました。

日月会副会長 黒沢 ミユキ(20期)

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羽生睦子さん退職



長年、建築学科研究室の事務(※1)として勤務され、現在、ムサビの総務チームで勤務されている羽生睦子さんが、今年度末(※2)をもって定年退職とのことです。
おそらく、現在40歳代以上の卒業生、そして、特に助手や教務補助の経験がある人にとって、羽生さんには大変お世話になった経験があるかと思います。
この場をお借りして感謝の意を表したく思います。
長い間、お世話になりました。ありがとうございます。

小林敦(18期)


※1 現在、建築学科研究室は、助手3名+教務補助3名で運営されていますが、1980年代末頃までは、助手2名+教務補助2名+事務(羽生さん)という体制で運営していました。
※2 3月17日(土)までの出勤だそうです。

写真:3月15日撮影。左から小倉康正さん(18期)、羽生さん、冨重法生さん(18期)

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第19回 日月会建築賞

7月8日、今年も恒例の日月会建築賞を開催しました。

この階段を何度登ったことかと思いながら会場へ

日月会建築賞は、3年生有志の課題作品を対象に日月会会員(OB)が直接学生と対面し、卒業生としての視点で作品講評を行い、その優秀作品に審査委員会によって賞を授与するというもの。課題の出題者である担当教員とは、違った視点の批評を受けることで、建築の多角的な視点を理解し、翌年には卒業制作に取り組む学生のトレーニングの機会となればと考えて開催しているものです。

今回、対象となった課題は、以下の通り。
・菊池宏・三池大地スタジオ
 第一課題「歴史遺構と現在を繋ぐビジターセンター」
 第二課題「(仮称)花咲山公園と寺坂棚田を繋げる提案」

・源愛日児・笹口数スタジオ
 「建築のタッチ(筆致)」をテーマとした2つの課題「フォリー」・「くにたち美術館」

・小西泰孝・奥野公章スタジオ
 「集積する構造によって大学キャンパスを設計する」

・鈴木明・常山未央スタジオ
 「Kodaira 2062 公共空間と公共施設からかんがえる小平未来のまちとくらし」

今年のエントリー作品数は30作品。
まず、13時〜16時半まで、各自の作品の元で審査員・OBとマンツーマンで対峙します。一人数分という限られた時間で、プレゼンテーションと質疑応答を繰り返していくやりとりは、審査員にとっても相当な集中力が求められる3時間半となります。
学生との対話を経て、審査員は持ち点を振り分けながら投票し、一次審査通過作品約10点が選定されます。

審査員、OBとマンツーマンで対峙する学生達


丁寧かつ的確に学生と対話する審査員


食い入るように模型をのぞき込む審査員


一人数分ながら密度の濃い時間


3時間半の学生との対話を終えて投票を考える審査員

OBは新月賞の投票を熟考する

まだ受賞者の決まっていない賞状

今年の審査員は、以下の5名。(審査委員長は、前年度の長尾賞受賞者が担当)
 審査委員長:中村文美(32期)/もば建築文化研究所副代表、ほか
 審査員:迎川利夫(10期)/相羽建設株式会社 常務取締役
     遠藤治郎(24期)/フェスティバルデザイナー
     小澤祐二(40期)/ピークスタジオ一級建築士事務所 共同代表
     佐藤仁美(46期)/アーティスト

審査委員長:中村さん

審査員:迎川さん

審査員:遠藤さん

審査員:小澤さん

審査員:佐藤さん

会長の挨拶、各審査員の自己紹介を経て、いよいよ公開審査がはじまります。

いよいよ公開審査会、石井副会長による軽快な進行でした

まず、一次審査を通過した11作品が発表されました。投票結果も公開された上で、ここから約1時間半、公開で審査員同士の議論が交わされました。
同じ作品であっても、各審査員の視点や作品の読み取り方で、評価が違うことが学生にも伝わる議論が展開されたかと思います。

まずは一次審査選考結果の発表

得票数と併せて一次審査通過作品発表を見つめる学生達

その後、一旦審査員が集まり、二次投票を行います。
今回は二次投票の際の議論は非公開としましたが、それぞれの審査員が推薦する案を巡ってヒートアップする議論は公開すべきだったかと、やや後悔するほどでした。

二次審査投票直前の議論は熱くなる

外もすっかり暗くなった19時半過ぎ、ようやく二次審査結果が決定。
再び学生達が待ち受ける場で二次審査の結果発表が行われ、表彰式を開催しました。
同時に、大学院生主催で二年生を対象とした金土会賞として、七夕賞の授与も行われました。

二次審査結果の発表

7時間にわたる個別講評と審査の結果、今年の日月会建築賞は以下の通りとなりました。
受賞したみなさん、おめでとうございます。

 太陽賞:松下峰大 「ART SQUARE」
 満月賞:ドロテア・ブランク 「Fragmental nostalgia」
 三日月賞:渡辺大輝 「TUTUTU」
 新月賞:磯野信 「Formed from Form」
  ※新月賞は当日参加のOBの投票によって選ばれます。

太陽賞:松下峰大「ART SQUARE」

満月賞:ドロテア・ブランク「Fragmental nostalgia」

三日月賞:渡辺大輝「TUTUTU」

新月賞:磯野信「Formed from Form」

受賞者と審査員、日月会会長、副会長

指導者としての思いも語られる鈴木先生による閉会の挨拶

そして、、疲れ果てた学生と審査員は、鷹の台駅前の懇親会会場に集まり、さらに作品や建築、将来のことなどについて深夜まで語りあうこととなりました。

2フロア貸し切りの懇親会では、まさに様々な話題が交わされた模様

スタジオごとにテーマや敷地が異なる武蔵美らしい課題に対して、実に様々な解答を考え建築として作品化されていて、審査員やOBにとっても新鮮な体験となったと思います。
また、各審査員やOBと学生が一対一で向き合い短時間のプレゼンを重ねることで、3時間半の間に質疑応答やプレゼンテーションが向上していく学生がいることは、意義のあることだと感じさせてくれました。
最も大切なことは自らの表現を他者へ伝え共感を得る努力をすることだと思います。そういった意味では、受賞順位や一次・二次審査での当落に関わらず、参加いただいた学生諸君には敬意を表したいと思います。参加を断念した学生、審査会に参加した学生には、今後の挑戦に期待したいと思います。

最後になりましたが、審査員を快く引き受けて頂き、学生との懇親会まで参加いただいた5名の審査員の皆様、当日参加いただいたOBの皆様に感謝を申し上げます。
また、日月会建築賞の為に縁の下で支えて頂いた研究室の皆さん、審査員サポートをしていただいた学生諸君にも併せてお礼申し上げます。
そして、教務とは直接関係無いにも関わらずご参加頂いた先生方、普段のご指導があってこその日月会建築賞だと思います。ありがとうございました。

日月会会長 小津誠一(23期)

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2017年度校友会総会行事へ参加

6月24日〜25日に開催された武蔵美交友会の総会行事「msb!サミット」「校友会定時総会」「地域フォーラム『アート&デザイン2017神奈川』」に参加してきたので、今回はその報告を。

初日は、武蔵美鷹の台キャンパスでmsb!サミットと校友会定時総会が開催され、全国各県の校友会支部から参加の代表者に混ざり、日月会を代表して初めての参加でした。各地からの参加者は約60名、役員や事務局も含めると80名を越える大きな集まりです。
冒頭、長澤学長の挨拶にもありましたが、武蔵美校友会は全国最大規模の会員数を誇るとのこと。海支部外を含む全国から集まった多彩な顔ぶれをみていると、本当に武蔵美OBの活動の多様さが感じられるものでした。
まずは、msb!サミット。ここでは近県地域でグループごとに分かれ「わたしたちにできること」というテーマでブレストとワークショップを実施。日月会の僕は、芸空の会、基礎デの会など学科単位のテーブルに加わり、学科単位支部会としてできることについて意見交換を行いました。最後には、各地域テーブルごとに議論の内容を発表して様々な意見を共有しました。活発な議論が交わされ、もっと時間が欲しいと思える充実したサミットでした。

テーマに沿って議論が交わされる各テーブル。
写真:校友会本部より提供


日月会も参加したチームメンバー。
写真:校友会本部より提供


サミット後の集合写真
写真:校友会本部より提供

その後、学内見学の時間があり、僕は美術館で開催中の「芦原義信 建築アーカイブ展」を観覧。芦原先生の東大とバーバードの卒業制作、間もなく解体されてしまう銀座SONYビル、前回の東京オリンピックでは中心的な会場となった駒沢公園体育館・管制塔をはじめ、20万点という膨大なコレクションから選ばれた100点を越える手描き図面や模型を間近に見られるいい機会でした。
近年、敷地が拡張され新校舎も立ち並ぶ鷹の台キャンパスですが、半世紀前に描かれたマスタープランを見ていると、この校舎で学べた幸せを感じる思いでした。
この展覧会は、8/13(日)まで開催されているので、みなさん機会あれば是非!


武蔵野美術大学美術館「芦原義信 建築アーカイブ展」

武蔵美鷹の台キャンパスの巨大模型

その後、校友会定時総会では、昨年度の事業や会計の報告、今年度の事業計画・予算案が承認され定時総会は滞りなく閉会。
続いて、サロン風月にて懇親会が催されましたが、懐かしい先輩や後輩との再会もあったりと楽しい時間を過ごし、鷹の台もすっかり夜に。そこから、大型バスに乗り込み横浜へ移動。ホテルへのチェックインを終えると同時に、ハマの夜に繰り出し、深夜まで語り合う懐かしくも熱い時間となりました。

12号館8F談話室MAUにて、長澤学長の乾杯の発声で始まった懇親会。
写真:校友会本部より提供


12号館8F談話室MAUにて
写真:校友会本部より提供

翌日は、朝からYCCヨコハマ創造都市センターをはじめ市内に点在するギャラリーで、神奈川支部会員の展覧会を巡るギャラリーツアー。午後には、武蔵美・校友会・神奈川支部主催の地域フォーラム「アート&デザイン2017神奈川~港町横浜に吹くアートの風~」が開催されました。この様なまち全体を使ったイベントが開催できるのも全国に支部がある武蔵美ならではことでしょう。

YCCヨコハマ創造都市センター


ちなみに、会場となった横浜市開港記念会館は、1917年に建築後、関東大震災や戦災、米軍接収を経て、1989年に復元され横浜の建築的なランドマークとなっている公会堂です。再開発も進む横浜ですが、横浜らしい近代建築の再生事例も眺めながら、その都市の”らしさ”とは何かを考える時間でもありました。

横浜市開港記念会館の公会堂内部


写真:校友会本部より提供

思えば、これまでさほど積極的に同窓会活動へ参加していなかった自分ですが、各地域でそれぞれの活動は貴重な横の繋がりを与えてくれるものだと、認識を新たにする良い機会となりました。それは日月会においても同じで、地方創生が謳われるいま、建築学科のOBや現役学生が地域や世代を越えて繋がり、各自の仕事や活動に活かされるような日月会へと進化しなければと思う二日間となったのでした。

日月会会長 小津誠一(23期)

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2017年4月22日 フォルマ・フォロセミナー第13回

フォルマ・フォロ セミナー第13回
「まちの使いこなし方をデザインするリノベーションという手法」
講師:大島芳彦(27期、ブルースタジオ専務取締役)
日時:2017年4月22日(土)16時〜18時
会場:武蔵野美術大学デザインラウンジ(六本木ミッドタウンタワー5階)

まずは鈴木主任教授の挨拶から。

第13回となる今年最初のフォルマ・フォロセミナーでは、リノベーションという手法で建築の再生やまちづくりに活躍するブルースタジオの大島芳彦さんに登場頂きました。
定員を超える約60名の参加者は、日月会会員、準会員(武蔵美建築現役学生)以外の参加者も多く、NHKプロフェッショナルでも取り上げられた大島さんの仕事への期待感や注目度合いが反映されたかと思います。

リノベーションをテーマに活躍する大島芳彦さん

大島さんとは、個人的には学生時代から交遊があり、いまでも仕事や各地でのリノベーションに関わる活動を共にする仲間でもありますが、人前で対談というスタイルで話をするのは僕にとっても新鮮な体験でした。

セミナーの前半は、リノベーションによる団地の再生、まちづくりなどを通して大島さんの仕事を豊富な事例やデータと共に語っていただきました。その語りは、優しい言葉づかいでありながらも、熱のこもったプレゼンテーションで、まるで落語家の独演のような大島節に引き込まれてしまうものでした。

なかでも「こと(ソフト)・もの(ハード)・時間(システム)」をデザインし、物語をデザインするという姿勢、不動産や建築を社会的存在として扱うことなど、建築のかたちのデザインを越えた活動とその哲学は、来場いただいたみなさんにとっても刺激になったのではないでしょうか。

データや事例を元に、熱いメッセージを言葉にしていく大島さん。


大島さんの決めゼリフ「あなたでなければ、ここでなければ、いまでなければ」の直後のスライド。(肝心のスライドは撮り逃しました。。)

後半は、ムサ美学生時代の引越や家探しの経歴、留学を経て設計事務所勤務を経て独立後リノベーションという仕事へと突き進んでいく経緯、在学中から変わらぬ建築家としての意志、各地での多彩な活動など、日月会でしか聞けないちょっとディープな内容も披露していただけたかと思います。

後半は、大島さんと対談で学生時代の話も。

会場での懇親会。さらに夜は続くのでした。

今回、カリキュラムスケジュールとの兼ね合いもあり現役生の参加が少なかった点が悔やまれますが、またあらためて現役学生諸君も交えて大島さんと語り合える機会もつくれたらと思います。

日月会会長 小津誠一(23期)

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