卒業生訪問:河童の家での発見[後編]
畠山鉄生[44期]+吉野太基[44期]
インタビュー
開催情報
日時
2022年8月10日
場所
河童の家
概要
2022年住宅建築賞金賞を受賞した「河童の家」を訪ねました。
解説をいただきながら見学をした後インタビューを行い、
河童の家の設計や建築について、大学時代について、お話しいただきました。
「河童の家」 畠山鉄生 + 吉野太基 / アーキペラゴアーキテクツスタジオ
建築の概要については、各メディアで発表されている内容をご覧ください。
前編はフォルマ・フォロ vol.21に掲載されています。
レポート
写真:千葉顕弥
河童の家の設計と家具
[聞き手:星野(42期)]お二人の中でスタディのやりとりをしていくときには、どんな風に作業を進められているんでしょうか。
[畠山]僕らはそれぞれのプロジェクトに担当のスタッフをつけて、図面や模型、パースなど、その時にエスキスしたい議題に対して有効なメディアを作ってもらって、それを一つ一つ議論して進めています。
[吉野]僕はわりと合理的に、条件整理や寸法整理をするのが好きなので、解くことをやりがちですが、ただ解くだけだと建築にはなりません。僕が目の前の具体的な問題を解くことに意識がいっていると、引いた視点からざっくりとした抽象的な話が畠山から出てきて、どうやって形にするのか?寸法は納まるのか?みたいにやりとりしています。だからといってスタディの役割分担を明確にしているわけではなく、自分たちが気になるところをお互いに言っているだけなので、全然合意が取れないこともありますね。
[星野]プロジェクトごとに主担当がつくわけではなく、ふたりともフラットですか?
[畠山]そうです。僕は抽象性を持った思想や概念が好きで、そういったものがどう建築に繋がっていくかに興味があります。吉野が解くのが好きなのに対して僕は問うのが好き。
[星野]なるほど。いい対ができていますね。河童の家では、いろいろと段ボールで作って現場で一分の一で確認されたということを別の掲載文章で読みました。そうした中で、ダイニングテーブルの製作もされていますよね。他にも、大きい家具、キッチン、棚、そういったものには建築とからめて対話があったんだろうと思います。
写真:千葉顕弥
[畠山]家具でいうと最上階のダイニングテーブルは高さを窓に揃えたかったので僕らで設計する必要がありました。どういった形にしようかと考えた時に、もっと建築に寄せるという選択肢も検討はしました。ただ、河童の家の階段が階段だけではないものになっているのではないかというときに、周りにある家具までもが、これはテーブルであり建築でもあるということになってくると中途半端だと思いました。あくまでこれはテーブルですよと位置づけるために、誰が見ても分かるようなディテールにしました。造作でつくりつけた棚も、もっとシンプルで抽象的な箱にすることもできましたが、少しディテールを作ってあげることで、これは棚ですよという記号性を持たせています。建築に寄せるのではなくて、家具として床に置いてあるという表現です。素材でいうと、家具の中ではキッチンだけシナでつくっています。他の家具はラワンで作ったのですが、キッチンはシナなんです。素材を決めるときに、感覚的ですがキッチンはラワンだったらちょっと変だなと、バランスが悪いなと思ったんです。
写真:千葉顕弥
[吉野]キッチンの他にも、家具的な扱いとして作っているトイレやお風呂の入っているボックスもシナです。家具の中でも動かせそうなものがラワンで、そうでないものをシナでつくるというルールなんですが、矛盾もあります。洗面カウンターはラワンで製作しましたが、配管もあるので動かせません。ただ表現としては動かせる家具のように見せたいと考えていました。
[畠山]ここはシナ、ここはラワンと、全体を見ながら解釈する部分があります。ただ自分たちでルールを作り、そのルールに則っているからといって、いいものができるとは思っていませんし、自分たちが形から受け取った感覚や違和感をどう秩序づけるかということも必要だと思っています。
武蔵美生の傾向
[星野]武蔵美にいる間は気づきませんでしたが、卒業して仕事をする中で、武蔵美生の傾向、特に弱いところが炙り出されると感じることが多々あります。武蔵美生は建築の議論をするのが苦手ですよね。
[吉野]どうですかね。弱い部分ではあると思いますが、平均的に強くなるよりも、武蔵美生は自分の興味があることをまずはとことん深堀りするほうがいいと思いますよ。できないことはできないし、興味ないことなんて、興味持てないんだから。ダイバーシティじゃないけど、その人がどのように特別な人で、その人にしかできない何かがあるのかっていうことに価値を持ったほうがいいと思います。例えば広く視野を持って、コミュニケーションをとることが得意な人もいるけど、それはその人の個性で、全員がこうならなきゃいけないっていう押しつけはいらないんじゃないかなと思います。
[畠山]星野さんがおっしゃった、武蔵美生は建築の議論が苦手っていうのはどういうフェーズで感じたんですか?
[星野]私の事務所は意匠事務所2社と構造事務所1社の3社でシェアしていて、みんなで建築の話をすることが多いんです。それぞれの事務所で進行中のプロジェクトについてだったり、その時々で話題になっている建築作品についてだったり話題はいろいろですが、みんなが何を言っているのか分からないということがけっこうあるんです。議論は白熱して進んでいくんですが、私には分からなくてついていけていない。
[畠山]そこで、何言ってるか分からないって言ったらいいんじゃないですか?それの何が面白いの?私に説明してよ、ぐらいの方がより面白くなると思います。そうすると、議論のなかで当たり前だと思われていたものが当たり前じゃなくなり、説明をすることで、より解像度を上げるか下げるかした時、そもそもどうして面白いのか、どういう面白さが残るのかっていう発見につながるので、その疑問を持った感性に従って問いかけるべきだと思います。僕も吉野と議論するときに、何言っているか分からないってたくさん言ってますよ。
[吉野]僕も言っているよね。
[畠山]そう、お互い何言っているか分からないから。笑
[吉野]スタッフ時代にもずっと言われてきたことですが、それはまだ自分の考えてることが構造化できていないことへの批評であり批判だから、伝えるためにはどうしたらいいか考えますよね。伝えるためには整理したほうがいいし、その訓練はした方がいいと思います。
[星野]そうですね。次は自分の訓練のためにも、何言ってるか分からないって伝えてみます。
[畠山]今はまだ分からないもの、楽しいものを作っているはずだから、何言っているか分からないと思うことも思われることにも、価値があると思います。武蔵美って、在学時を思い返すと、僕たちの周りの人たちは、すでに「答え」のある事を考えてる人はいなくて、自分たちが考えていることや自分たちが興味のあることに、ただひたすら向き合っている人が多いと思っています。他者から答えをもらうなんていう考えは微塵もない。そうやって自分で向き合うことでしか解決できないことを考える傾向にある人が武蔵美には集まっていたし、そのトレーニングを在学中に出来るのは武蔵美生の強みだと思います。もちろんそれだけじゃダメで、自分にとっての話だけではなく建築全体、社会全体としての議論に載せていく必要はあります。まずは自分にとって好奇心のあることが、建築とどう繋がっているのかに関心をもつと、モノゴトの考え方や見え方がガラリと変わってくると思います。
[吉野]自分の創作活動という捉え方だけでは、どこかで先に進めなくなります。僕たちのやっていることは建築の歴史につながっているから、それを学ぶことは重要だし、建築としてどれだけ新たな価値を見出せるか、積み重ねていけるかです。そのためには学問としての建築が必要だと思っています。僕は三年の後半くらいから、西洋建築史を能動的に勉強し始めてみたら、それまで歴史について全く無意識だったのに、こんなにも長い建築の歴史、紀元前からの延長に自分がいま考えていることがあるんだって、ありありと実感できたんですよね。その瞬間から歴史ってすごく面白いと感じました。
[星野]今のお話は、現役の武蔵美生にも卒業生にとっても、非常に重要なアドバイスになると思います。
武蔵美での卒業制作
[星野]お二人の卒業制作について、伺えますか?
[畠山]それは今思えばちょっと不思議な話があります。卒制って自由に敷地を選んだりプログラム決めたりするじゃないですか。僕たち2人は、学生時代は仲がいいわけじゃなかったので制作中には特に話すこともなく知らなかったのですが、たまたまお互い選定した敷地が隣同士だったんです。
[星野]隣?え、そんなことあります?
[畠山]そう、講評会が終わってから分かったんです。
[吉野]卒制では僕は結構大きなものをつくっていたんです。街区ごと対象にするような。その隣の街区が畠山の選んだ敷地だったんです。
[星野]それはどこですか?そんなすごいことあるんですね。
[吉野]裏原といわれる、キャットストリートの延長のあたりですね。もともと水路があって、谷の低い方は古い木造民家を改修してテナント化したような建物があり、ちょっと高台の方に行くと高級マンションがあります。地形によって文化的な多様性のある場所だったので、その辺に興味を持ったというところは一緒だったんでしょうね。
[星野]お二人の敷地は、重なってはいないのですか?
[吉野]全く。
[畠山]本当に隣なだけで、全く重なっていなかったですね。
[星野]それはすごいですね。でもお互いに同じ付近に興味を持ちながら、最終的に敷地を選ぶ決め手があったはずで、それは違っていたと。
[畠山]そう。考えてることや感じていることは大枠では同じなんだけど、細分化していくとはっきりと違うんですね。
[吉野]畠山が選んだ敷地は、僕は選ばない。
[畠山]僕も吉野の敷地は選ばない。
[星野]象徴的な出来事ですね。
[畠山]作っている模型のスケールもたまたま同じだったので、最後くっつけてみようぜってなったんですが、見事にピタッとハマりました。笑
[星野]それはもう、運命ですね!おふたりの今後の作品も楽しみです。
敷地図・平面図
矩計図
畠山鉄生 | Tetsuo Hatakeyama [左]
建築家 1986年 富山県生まれ。2011年 武蔵野美術大学卒業。2013年 同大学大学院修士課程修了。増田信吾+大坪克亘を経て、2017年 Archipelago Architects Studio 設立。
吉野太基 | Taiki Yoshino [右]
建築家 1988年熊本県生まれ。2011年 武蔵野美術大学卒業。2015年 東京藝術大学大学院修士課程修了。長谷川豪建築設計事務所を経て、2020年 Archipelago Architects Studio 参画。