創造力の伝え方 建築学科創設50周年に向けて
第3回 日月会シンポジウム/日月進歩
開催情報
日時: | 2012年10月27日(土)13:30〜16:30 |
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場所: | 武蔵野美術大学建築学科研究室内 |
パネラー
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田中 陽明
26期/春蒔プロジェクト株式会社代表取締役/クリエイティブ・ファシリテーター
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田熊 里子
36期/フィンランドの家具会社「ARKTIS」マーケティング担当
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飯田 彩
37期/編集者/デザインコミュニケーター/元新建築社編集部
司会進行
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小倉 康正
武蔵野美術大学建築学科講師
今回で3回目になる日月進歩は、武蔵美の芸術祭初日のすこーし時折肌寒くなった10月27日(土)に例年のように小平の建築学科研究室内にて行われました。
今回もホームカミングデイ第一部として小倉さん(18期)司会のもと、武蔵美建築学科卒業生の飯田彩さん(37期)、田熊里子さん(36期)、田中陽明さん(26期)の3名に学生時代から近況にいたるまでの活動や考えてきたことのミニレクチャーをしていただきました。その中の田熊さんには鷹の台とは6時間時差のヘルシンキのオフィスからスカイプの画像と声によるシンポジウム参加でした。
飯田さんは、フリーの編集者でデザインコミュニケーターという肩書きで、デザインや建築を様々な人と結びつける仕事をされていて、
田熊さんはヘルシキンキで現在「ARKTIS」という家具会社のマーケティング担当をされていました。
田中さんは、シェアオフィス事業「co-lab」のチーフオーガナイザーとクリエイティブ・ファシリテーターという肩書きでクリエーションする環境をデザインし、それらをビジネスに展開されていました。どなたも建築に関わりつつ既存にある異種のカテゴリーを横断されながら仕事をされていてとても刺激的なお話しでした。
それぞれの方にミニレクチャーをしていただいた後に、第二部として対談を行いました。
第二部は、スカイプの田熊さんも武蔵美の会場とパネラーの皆が対談できるようにと、スカイプのカメラを前に置き、それをパネラーと会場の参列者が車座で向きあうかたちでお話を始めました。
その図らずとったかたちはその後パネラーと会場、外国と日本というのも分け隔て無く活発な話を循環させ、思った以上に功を奏したように思います。
車座というフォーメーションのためにお話しのパスが通りだしたというのもあるかもしれませんが、今回のパネラーのそれぞれの方が、いろいろな環境で「共有」と「関係」をクリエイトできる方だったからかもしれません。それと、お話しからは皆さん武蔵美の後に違う大学に属している方々なのに、武蔵美愛を皆さんから感じ、とても気持ちの良いクロストークの時間でした。そういえば今年のゲーサイは「MAU族?」だった。みんなやはり「MAU族」なのでしょう。
その活発な議論の中には、武蔵美の常勤の源先生、布施先生も参加していただいたうえ、日月会のおじさんMAU族だけでなく、とても若い日月会員や学生にも参加していただいきました。
そもそもこの「日月シンポ」はきたる50周年企画への助走とヒントを探る企画でありました。会場にいた皆さんからも懇親会では今回の日月シンポはとてもよい時間とお話しがみんなでできたという感想をいただきました。そういう点ではわずかでも進歩(シンポ)したでしょうか?
ただ一方、布施先生からもお話しをいただきましたが、今回のパネラーも今までのシンポも「非建築」の方が多いから、武蔵美建築学科は「非建築=建築以外の多様な広がり」ですよとまとめて見せるだけでいいのかは素朴な疑問としてでました。あまり建築の意味論になるとちょっとヘビーになり武蔵美らしさが無くなってしまいそうですが、いい意味で軽やかに本題の「50周年」にランディングし新たな武蔵美建築はどこに向かうべきかを探りたいものです。結論があの時間で出たわけではありませんがそういう話を先生も学生もOBも一緒の場で話し始めることが行われたのは有意義なことだったように感じました。
シンポも懇親会も話がもりあがるなかスカイプの画面のヘルシンキはもう市内のトラムなども通過し、田熊さんのいるショールームにも朝日の青白いまぶしさを感じ取ることができました。
まるでジム・シャームッシュの映画「ナイトオンザプラネット」のエンディングのヘルシンキの朝のようだなあと(全く個人的にですが)感じながら、スカイプの田熊さんと回線を切ることになりました。
その後は、国分寺へと場所を変えてのおじさん、おばさんMAU族でした。
以下、シンポジウムの各パネリストから所感をいただきましたので、掲載いたします。
田熊 里子(36期/フィンランドの家具会社「ARKTIS」マーケティング担当)
日月会シンポジウムに参加させていただいたきっかけは、フィンランドでの仕事を通してお会いした源ゼミ出身で編集者の尾内志帆さんからのお誘いでした。卒業後しばらくムサビから遠ざかっていましたが、今回の参加は出発点に立ち戻るよいきっかけになりました。
スカイプでの参加だったので、皆さんに直接お会いできなかったのが残念でしたが、ご一緒させていただいた田中さん、飯田さんの活動や考え方に共感できる部分が多く、ベースとする場所が遠く離れていても時代の流れの中で感じ取って行くものがリンクしているという感覚も得ることができ、そういった意味でもムサビ建築学科のつながりを確認したように思います。
変化の早い現代において、何事も進化させつつも古き良き大切なものは守るというバランスがとても重要だと思いますが、建築学科も気持ちよく前に進みつつ、シンポジウムで感じたおおらかで温かい雰囲気は変わらずにいてほしいと思います。
飯田 彩(37期/編集者/デザインコミュニケーター)
今回は建築設計を仕事としていない3人のパネリストということでしたが、私は、書籍の編集や、建築・デザインと社会、人と人をつないでいく仕事を通して、広い枠組みでの建築活動をしていると思っています。田中さん、田熊さんも、それぞれに「建築をやっている」という感覚を持ちながら、肩書きにとらわれないイノベーティブな活動をしておられ、お話をする中で、ムサ美建築学科で学んだ人材の多様な可能性をあらためて感じました。
教授陣から、建築学科の50周年に向けて、学科創設時の「建築家を育てる教育」という理念に立ち戻るというお話がありましたが、目指すべき「次世代の建築家」像をあらためて考える必要があると思います。
磯崎新さんが最近のインタビューの中で、アーキテクトとは、建築のみならず新しい構想を実現していく人だという主旨のことを話されていますが、そのような機能拡張した「アーキテクト」こそ、既存の枠組みにとらわれず、柔軟な思考ができるムサ美学生の強みが生きる姿ではないでしょうか。
学生の個性がますます輝く、建築学科の進化を楽しみにしております。
司会所感
小倉 康正(18期/武蔵野美術大学建築学科講師)
「関係性のデザイン」
クリエイティブ・ファシリテーター、 “ARKTIS” マーケティング担当、デザインコミュニケーター。パネラーの方々3人の肩書きを並べてみると、どれもなじみのあるものとは異なります。
ディスカッションからみえてきたのは、従来の肩書きに対する違和感が3人に共通していることでした。あるいは肩書きに組み込まれることヘの違和感、と言った方が近いのかもしれません。自分が求めている仕事には新しい肩書き、つまり新しい枠組みが必要であったというわけです。デザインするということが、かたちをつくることのみならず、それに関わる人・モノの関係性までを含めた行為であるという意識が強く伝わってきました。
また、美大という場所で得た経験と、その後進学で経験した異なる価値感が、関係性からデザインを考えるきっかけとなったという3人の話は、まもなく50周年を迎える建築学科へのメッセージでもあったとおもいます。
田熊さんにはヘルシンキにある“ARKTIS”ショールームからスカイプで参加していただきました。シンポジウム開始時に映し出されたのは暗いショールーム。それが朝の到来とともに日差しにあふれる眩しい室内にうつり変わって行く様は、ミニマルミュージックのようにじわじわと沁みてきました。