今年の日月会賞は3年生前期課題が対象となり7月10日に開催されることになりました。昨年の審査の様子はカテゴリー「日月会賞」で見ることができますが、今回は受賞作品を振り返ってみましょう。最後に審査委員長井手孝太郎(22期)さんの審査評も掲載します。
太陽賞 Stratum Space〜地層の空間〜 川畑 勝也/高橋スタジオ
「地形のような建築」を目指した。その為に、敷地周辺特有の地形情報(=断層)を読み解き、「プレートの積層と相互のズレが生み出す空間」というシステムを考案。
周辺環境に馴染む外観と、劇的な光、スケール感の内部空間を併せ持つ建築空間となるよう模型検討を重ねた。
さらに建築空間と周辺環境が調和するような質感(仕上げ)と、巨大なスケールを実現する為の構造システムを考えた。
受賞後の感想
素直に嬉しかったです。
今回の日月会賞では、とにかく人を引きつける、記憶に残る力強いプレゼンテーションを心掛けました。現在活躍されているOBの方々と本気で討論することができとても楽しかったです。
満月賞 『空き間光景』 青山優歩/土屋スタジオ
「都市の中、光の通り道を構築する。」
これをコンセプトに、私は新宿という都市にスポットを当て、そこに存在する建物と建物の間、“空き間の景色”を写真におとしていきました。そこから空き間だけが表に現れた都市空間を、約6mの一本の道として再構成し、写真と自然光によるインスタレーションを行ないました。
都市の中には建物と建物によって切り取られた細長い“空き”スペースが存在します。このスペースは単なる空白やゴミ溜めといった普段目を向けられない面だけではありません。むしろ、都市の中に風や光を通す大事な空間であり目を向けられるべき面でもあります。この空き間が建ち並ぶ空間が、都市の中の目に見えない、形のない領域の大切さに、気付いて頂くきっかけとなればと思います。
今回、満月賞を頂けたこと、多くの先輩方にコメントをいただけたことは、私にとって今後学ぶべきものが見えてきたような、そんな貴重な経験となりました。建物はその場に建ってしまったら動く事はありません。しかしその内部には人々が動き、空気が流れています。外部でも建物の側面には風、日の光、その土地土地の匂いが流れているはずです。それらの領域に、私は五感をフルに働かせ、身体で感じ取る、そんな空間を創造していきたいです。
三日月賞 「せきそう」 湯浅里香/布施スタジオ
コンセプト:通常の2倍のスラブを積層させることで、〜階という考え方をなくすという操作をした。それによって階を積層せざるをえない敷地条件のなかで、多数の機能が集まる複合施設を、それぞれの機能が個々に完結することなくお互いに関係性をもって存在させられると考えた。
コメント:日月会賞をとおして、自分が考えていることが、自分以外の人にも理解してもらえて、共有することができるということが分り、これからの制作へのスタンスに参考になりました。
新月賞 【東京夜景】伊達静香+野田あづさ/土屋スタジオ
作品概要
東京タワーの大展望台から見える夜景の一周を、人が入ることのできる円筒形のドームのような空間に表現した。780X6900の黒ケント紙に夜景の発光している部分を写しとり、その一つ一つをカッターで切り抜いた。それらを発光部分以外には光が入らないよう全て黒い素材で覆い、高さ1800X直径2200の三十角柱の上に、ドーム状の屋根をのせた部屋にした。また、夜景を一周きれいに見渡せるようにするため、部屋の内部には柱を立てず、屋根部分は天井からニクロム線で吊り上げた。
制作意図
東京の夜景を通して、私たちの感じた何かを表現するというよりは、初めて展望台に上って夜景を見た時の感動をそのまま体感できる空間をつくりたかった。実際に展望台から夜景を見渡した時、予想以上の光の多さやその美しさに素直に感激するが、それと同時に、東京には無数のビルが建ち並び、人間がいて、これだけ多くの電力が消費されていることを考えると、ある種ネガティブな要素も感じずにはいられない。何を考えるかは個人によって様々であるが、東京の夜景は本当に色々なものを孕んでいて、写真や映像で見るそれとは比べ物にならない発見がある。私たちの作品の中に入ってそれを見た時、何か感じてもらえたらと思い、制作した。
第11回 日月会建築賞 審査委員長審査評
開催日:2009.12.19
審査委員長:井手孝太郎(22期・2009年竹山実賞受賞)
太陽賞 :川畑勝也/高橋スタジオ
水と陸(建物)が複雑に入り組んだ構成で、自然と人工が一体となった詩的な景観を
作り出していた。
大胆な構成だが、造形的に高い次元まで練り上げられていたし表現力も高かった。
日本の現在のはやりに流されない骨太な空間に共感した。
満月賞 :青山優歩/土屋スタジオ
見慣れた風景の地と図の関係を再構成して、都市空間を再認識させる作品。
都市建築の間の空間を撮影し、そのポジフィルムをつなぎ合わせ狭い廊下で連続的に
バックライトで見せていた。地と図の逆転という手法は常套手段だが、そのプレゼン
テーション方法に特に評価が高かった。
三日月賞:湯浅里香/布施スタジオ
様々な大きさの穴のあいたスラブをランダムなピッチで積層し、建築(空間)と内部
機能(書架)を一体で構成している作品。
1つの単純なシステムが、透明でありながら複雑な空間を作り出し、中の人と書架の
本を含めた各空間のつながりが不思議な小宇宙を作り出していた。水彩のパースも印
象的だった。
新月賞 :伊達静香+野田あづさ/土屋スタジオ
東京の360°の夜景の光を黒紙から切り出しバックライトで見せた作品。
何よりもその圧倒的な作業量に誰もが感嘆した。なぜか「武蔵美的」ということで審
査員全員の意見が一致した。良くも悪くも皆が武蔵美を再認識した作品だった。
総評:
思い返してみると、どの作品も統一されたエレメントの集積で全体を構成し、そこに
1つの小宇宙を作り出そうとしている点で共通していたようです。やはり近年の人気
建築の流れを大きく感じました。
3年生の作品としては密度の高いものも多かったと思いますが、もう1つパンチに欠
ける気もしました。1年後の卒業制作では武蔵美的な元気な作品を期待します。