9月10日(土)、中村好文(なかむらよしふみ)さんを新宿サテライトに迎え、第5回フォルマ・フォロセミナーを開催しました。
中村さんは、ムサビ建築学科の5期生です。この日のセミナーには104名のみなさんが集まりました。ムサビ以外の方がムサビ関係者の数を上回ったのは、フォルマ・フォロセミナーはじまって以来のこと。住宅建築家 “ナカムラコウブン”の人気の一面をうかがわせました。
セミナー前半では、Lemm Hut(長野県北佐久郡)とBOULANGERIE JIN(北海道真狩村)の2作品の紹介、後半は、TOTO出版編集部の筏久美子さんとの対談が行われました。以下、その報告です。
・[Lemm Hut] エネルギーを自給自足する家
軽井沢と小諸の間、御代田に建つ、Lemm Hutは、中村さんご夫妻と事務所の所員が休暇を過ごす家だ。7年程前に、土地と家を借り受け、改修が施された。元の家のブロック積みをそのままいかした小屋(建築面積約50㎡)は、ロフト付きの居間兼食堂兼寝室の部屋に、台所のある土間とえんがわを増築し、後にウッドデッキがつくられた。敷地の片隅には、五右衛門風呂のある風呂小屋、そして菜園がある。
「人の家で実験するわけにいかないから、自分の家でやりました」中村さんは以前から、電線もガス管も、水道管も、何もつながれていない住宅をつくりたいと考えていた。講演では、Lemm Hut にある「エネルギーの自給自足」のためのさまざまなしつらえと生活のようすが紹介された。小屋の片流れの屋根から集めた雨水は、水槽に溜めて生活用水として使う。(これにはドイツ製の集水器が大活躍)ガスを使わず、自ら考案した “七輪レンジ” で炭を使い、台所をまかなっている。
中村さんは、「建物が働く」ようすを目で見てわかるようにしたかったそうだ。小屋の脇には、ソーラーパネルと風車、高架水槽として使うウイスキー樽を備えた “エネルギータワー” が建っている。 そして、この家の建設は、工務店に必要最小限を頼み、基本的には所員や友人が総出でおこなった。
と、すらすらと語ったが、実際は、計画どおりにはいかなかったようだ。台所を使い、食事をし、夜を過ごし、自ら生活して確かめながら、建物に手を加え、今のかたちに落ち着いた。
“働く建物”は「けなげだ」と中村さんは表現する。中村さんの手にかかると、家は生活をともにする仲間のように映る。
*Lemm Hutは「普通の住宅、普通の別荘」TOTO出版 に掲載されています。
Lemm Hutの名まえの由来は、事務所名レミング(=Lemming)ハウスのLemmと、小屋=Hut。 鼠年生まれの中村さんは、旅行好き。ヨーロッパ各地を訪ね、回想を綴った出版物も多い。”レミング”は、ツンドラ地帯に棲むねずみの一種、和名は旅鼠だそうだ。中村さんの”何もつながれていない住宅”への欲求は、自身の遺伝子がそうさせているのかもしれない。(続く)[18期 朝比奈]