今年の武蔵野美術大学建築学科50周年に向けて2011年から企画がスタートしたシンポジウム「日月進歩」はついに節目となる第6回目が10月25日(土)に武蔵野美術大学鷹の台校舎にて行われました。
例年通り、芸術祭の初日にあたり、今年の芸術祭のテーマは「サーカス」でした。校門から1号館への通りは毎年テーマに合わせて彩られ、行く人を楽しませてくれます。
今回はシンポジウムはいつもの建築学科研究室ではなく、12号館8F談話室MAUに設けられた「サロン風月」会場内の一画を利用して行われました。
第4回からはテーマを『学生時代に取り組んだ「課題」を通して』として継続し、今回はその最終回の第3弾です。1990年代から2000年代にムサビで学生生活を過ごし、現在、建築設計のフィールドを中心にしてご活躍されているパネラー3名にお越しいただきました。
それでは、パネラーを紹介します。
伊藤友紀さん (40期) Under 35 Architects exhibition 2014 選出
田中匡美さん (36期) 一級建築士事務所サンゴデザイン共同主催
小泉一斉さん (29期) smart running一級建築士事務所共同主催
そして司会は小倉康正さん (18期) 武蔵野美術大学建築学科講師です。
第一部はまず伊藤さんから。
伊藤さんの頃は、提出模型の大型化や1/1スケール、CAD図から図と絵の中間を行くような図面など、表現が多彩になってきているのがうかがえます。家具や人物など添景を図面に描き込む、また模型にも作り込むというのが主流だったそうです。数学選択で入学された伊藤さんは当初は「とまどった」とのことですが、一貫して身近なモチーフや身体的なスケールから発想され、アイデアを作品に昇華させている過程もよく伝わってきました。住宅作品においても、より大きなスケールの作品においても非常にパーソナルな部分、内側からの発想が貫かれているのですが、詩的表現に自己完結することなく、各プロジェクトが有する多様性をやわらかく包容している様子が印象に残りました。
次に田中さんの課題作品です。
田中さんのプレゼンには、当時の課題文の用紙が提示され、びっしりメモを取られた様子がうかがえます。保坂先生の課題では、精巧な木軸の模型を作られていますが、1FをRCとしたため、総木造の作品に比べ、これでも楽な方だったそうです。入学前に社会人経験のある田中さんの作品は実直なリサーチやマスタープランを元に順序立てて設計されており、オーソドックスな手法を取りつつも、図面や模型の中に膨大なエネルギーと「住」へこだわりが注ぎ込まれているところが印象的でした。バルーンをネットで固定する案や閉じない壁を持つ家などそこに詰められたアイデアもコンセプトだけに傾倒することなく、作品全体とバランスが非常に良く取れているところがよく伝わって来ました。
最後に小泉さんです。
設計事務所の実施図面アルバイトで鍛えたというその手書きの技術は大学時代がピークだったとのことですが、学生の図面とは思えないほど実にしっかりと描かれていました。今日の気分を浅田彰の著作を引用しつつ「シラケつつノリ、ノリつつシラケる」と評した小泉さんは自己の作品を常に「時代」や「社会」の中で捉えて、自在にズームイン(ノル)とズームアウト(シラケ)しながら説明していただきました。「コミットする時代→シラケの時代→相対化する時代→居場所を見つける時代」という一連の流れの中で語られた作品には思わずウンウンと頷いた方も多かったのではないかと思います。緻密に構築された作品の背景に時代や社会に対する秀逸な考察が広がっており、1つの作品からどこまでも広い世界が見渡せるような感覚がとても印象的でした。
第二部は司会の小倉さんからの問いかけでクロストークが広がり、各パネラーの作品に対する執着点や学生時代の様子などが探られ、第一部で提示された作品がをまた違った角度から掘り下げられました。途中、課題の出題者の源先生が当時を振り返って、自ら出題意図の説明される場面や諸先輩方も交えて出題当時を振り返る一幕も。最後にこれまでの50年に対して、これからの50年を見据えたコメントを各パネラーからいただき(そこはあえて省略)、閉幕となりました。
建築学科創設後の50年を、誰もが悩みながらも懸命に取り組んだ「課題」という共通項をもって見渡してみようというこの試みは今回の第3弾をもって一区切りとなりました。複数の個から総体を浮かび上がらせるというこの企画を通じてみなさんにはどのようなことを感じられたでしょうか?絶えず変っていくものと、またずっと変らないものといろいろなものが見えてきたように思います。
17:00~の懇親会は「サロン風月」会場で、校友会支部から提供された地酒なども振る舞われ、あっという間の2時間でした。みなさん大いに楽しまれた様子でした。
34期 内海 聡