第7回武蔵野美術大学建築学科芦原義信賞
受賞者:栗林 隆(1993年日本画学科卒)
受賞作: 「Wald aus Wald」
審査総評 戸谷 成雄審査委員長
今年の芦原賞への応募は16件あり昨年より増加したが、残念ながら自己推薦者の作品レベルは全体的に低調であった。この点から言っても公募方法は、今後検討すべき課題である。この賞は領域を横断した対象に与えられるのであるが、その性格付けが明確化されていないこともあって、さまざまな年齢層、レベルの格差を生じる結果となった。そこで何を重視し審査をするかの議論があり、実績とクオリティを伴い現代社会に刺激を与えている作家、作品を選考することになった。その結果、栗林隆氏のインスタレーション「林による林」を今年度の芦原賞作品と決した。選考過程において、伊坂道子氏の「増上寺境内の研究」の調査研究と、丸橋浩氏の「聖子光三ツ橋保育園」の屋上芝グラウンドの発想に好感をよせる意見があり、伊坂氏を次点とした。栗林氏の作品は、和紙という光を透過させる素材により林と地面が型取られ、その異なる物質性は皮膜へと還元されている。この還元作用により空間と物質の境界領域の可視化に成功しているが、欲をいえば樹木は地面との境において空洞であるべきではないか。
第7回武蔵野美術大学建築学科竹山実賞
受賞者:増田 信吾(2007年建築学科卒)
受賞作:「風がみえる小さな丘」
受賞者:藤井 香(1997年建築学科卒)
受賞作:「スマラガ歴史文化センター」
第7回竹山実建築賞を選び終えて 竹山 実
今回の応募作は合計14点で、卒業年度1983年から2006年に及ぶ14名の卒業生から力作が寄せられました。すべての作品はそれぞれ異なった意図でつくられたものです。それを比較することは土台無茶なことかもしれませんが、毎回一貫している僕の視点は発想の独創性という点にあります。
いろいろ検討した結果、今回の受賞作は以下2作品に絞りました。
増田君の案は不思議な魅力をもった作品です。この「風に揺れる建築」は、その発想がなかなか面白いし、その意図は十分に伝わってきます。この塔の建てられた丘の表情も実に良い。実際にその「揺れ」を経験しないと不確かですが「違和感のない揺れ」は目よりむしろ身体によって感知されるのでしょう。それを暗示しているのが床に敷き詰められた枕木の上のイスです。しかし、そこにどう腰をかけるのか僕には読めません。むしろここには特定の人をかけさせない方がいいと感じます。「揺れる建築」が今後もっと現れたらそのプレゼには動画の方がより向いているかもしれません。
一方、スペイン北部バスク地方に位置する小さな町スマラガに計画された「歴史文化センター」はコンペで最優秀案に選ばれたものだそうです。市街地から離れた山腹にデザインされたこの案の趣旨は、配置図と断面図で十分伝わってきます。その環境デザインにすっかり魅了されてしまいました。それ故、2013年竣工予定とありますが、それを待たずに今回選ばせてもらいました。この機会にどのように恵まれたのかの説明をもっと知りたいものです。今後こうした海外での仕事の機会はますます増してくるでしょう。
上記の作品以外にどうしても触れておきたい応募案が少なくとも2つあります。「Fクリニック(藤澤心臓血管クリニック)」(遠藤謙一良君)と「秋月舎」(内田淳平君)です。前者は小樽の市街地に計画されたクリニックで、ここでは全体の隅々に張りつめたある種の誠実さが光ります。加えて密着通気型の外断熱構法とか木製ガラスのトリップルガラスの採用等々、環境計画にも精一杯の努力のあとがうかがわれます。後者は浜松の阿多古川のほとりにつくられた住宅(及びギャラリー/設計事務所/ゲストハウス)ということですが察するに、これは作者自らのもののようです。「田舎だからゆったりと余裕のある暮らし方が出来ることを説明したかった」という作者の意図に僕はとても強い共感を覚えます。(以上)