第15回 日月会建築賞
2013年度
開催情報
開催日
2013年7月6日(土)
審査員
審査委員長
小倉 康正 | 18期 |
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審査員
池野 秀基 | 2期 |
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石原 信 | 12期 |
下村 治子 | 21期 |
佐藤 恒一 | 23期 |
清水 隆之 | 33期 |
鈴木 竜太 | 36期 |
井口 雄介 | 41期 |
エントリー作品数
26作品
エントリー課題
菊地・船曳スタジオ: | 「グラフィックと建築についての可能性」 「グラフィックでつながる都市の複合施設」 |
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高橋・増田スタジオ: | 「グラデーショナル」 「都市の環境単位 "井の頭公園周縁"」 |
長尾・河野スタジオ: | 「神楽坂プロジェクト ~都市の歴史的把握と未来へ向けて~」 |
宮下・橋口スタジオ: | 「自然素材のプロジェクト Design with Nature」 |
太陽賞受賞作品
探索の棚 継承の棚
野口 友里恵 (高橋・増田スタジオ)
作品の主旨
吉祥寺・井の頭公園周縁に、3歳~15歳までの親のいない子供たちが集まって暮らすグループホームを提案する。
親のいない子供たちが集まって住むという条件から求められるハードとソフトを、対象敷地周辺に存在している界隈性を分析・変換して得た「探索」と「継承」という2つの行為をもとに、2種類の棚を使った解法で構成した。
1つ目の棚は「探索」を表している。住人である子供のスケール感覚を用いて、子供だけの動線を複数確保する操作を行う大きな棚である。
2つ目の棚は「継承」の棚で、年齢別に部屋が変わることに対して使う棚が一続きであることから生まれる、住人の子供の間にものを受け継ぐシステムを形にした。
受賞の感想
吉祥寺・井の頭公園周縁に、3歳~15歳までの親のいない子供たちが集まって暮らすグループホームを提案する。
親のいない子供たちが集まって住むという条件から求められるハードとソフトを、対象敷地周辺に存在している界隈性を分析・変換して得た「探索」と「継承」という2つの行為をもとに、2種類の棚を使った解法で構成した。
1つ目の棚は「探索」を表している。住人である子供のスケール感覚を用いて、子供だけの動線を複数確保する操作を行う大きな棚である。
2つ目の棚は「継承」の棚で、年齢別に部屋が変わることに対して使う棚が一続きであることから生まれる、住人の子供の間にものを受け継ぐシステムを形にした。
満月賞受賞作品
INOKASHIRA RUNNING STATION
安倍 直人 (高橋・増田スタジオ)
作品の主旨
心地良い運動とはどういうものでしょうか。
ゴルフのクラブハウスがコースまでのエントランスであり余韻に浸る場所であるように、
運動の質そのものはもちろん、同様に運動というアクティビティの前後も心地よい運動の為の重要な要素であると考えます。
井の頭公園内の池沿いの道は緑に溢れ次々と新しい景色が現れる理想的なランニングコースの表情を持ち、日々多くの人が街から走りにやってきます。
しかしコース付近には運動の為の準備の施設、スペースがありません。
また公園の入り口とコースを結ぶ線と一般の人の動線や溜まり場が交差し、ランニングコースと街から入ってくる動線がブツッと切れてしまっています。そこに街と公園を繋ぐ駅と道を作ることで、街と公園のランニングコースという異なった質の環境をグラデーショナルに繋ぎ井の頭公園に新たな場所性をもたらすことを提案します。
受賞の感想
少しでも自分の想像する楽しさみたいなところが伝わればと思いたくさんの方にプレゼンを聞いていただきました。厳しいことや共感してもらえたところなど様々な意見をもらえたことは良い経験になりました。これからも色々なところから刺激をもらい日々精進していきたいと思います。ありがとうございました。
三日月賞受賞作品
The space of unit’s bamboos
立木 真央 梅澤 昌平 小林 総司 (宮下・橋口スタジオ)
作品の主旨
この作品は自然素材・竹を使用し、竹でユニットを作り、組み合わせ空間を構成していくことができる作品です。このような作品を作った理由としましては、1つは自然素材を使用した新しいシステムの提案・自然素材という加工を施さない材をユニットにして扱いやすくしようという試みと、2つ目は竹という材の可能性の発見ということをテーマにこの課題に取り組みました。
この課題で実際に制作した1/1の作品はほんの一例であり、組み合わせ次第で用途は変わっていきます。竹の材をいかに現実的に活用するか、今回は作ることができなかった大きさのものを模型で表現したり、それ以上の大きさのものを竹という材を使用し構築することができるような可能性を竹材から想像できました。竹という材から様々な可能性を提示することということが今回の私たちの作品の重要な主旨です。
受賞の感想
宮下ゼミでは「自然との対話」をテーマに課題が出されました。一分の一の実寸スケールするという指定があり、自分たちが持っている知識の範囲内で力を出し切ることの難しさをしりました。日月会建築賞に参加し、現役でご活躍されている方々にプレゼンテーションすることは初めての経験だったので、貴重な体験になりました。また公開審査では審査員の皆様が各々評価すべき点や改善点、問題点を仰っている様子を聞くことができ、作品がどのように評価されるのかを目の前で見ることができたことは非常に興味深く、勉強になりました。多方面から制作した作品を見つめ直すこと、作品の内容を濃くし相手を納得させられることをこれからの制作で心がけてゆきます。
新月賞受賞作品
積層する地図
池川 健太 (長尾・河野スタジオ)
作品の主旨
神楽坂3丁目の一角にコンプレックスを提案する課題です。
神楽坂駅を出ると、人や車が多く通る早稲田通りがあり、少し進むとヒューマンスケールの路地裏が存在し、路地裏の先には、商業開発によって生まれた高層マンションが前ぶれなく現れます。
この街の大きな特徴は、歴史と現在を象徴する場所が混在し、一瞬で情景が変わるような瞬間に多々出会う所です。
そこで街で起こる多様なふるまいを一つの建築にまとめ、神楽坂の街並を重層的に体験できるコンプレックスを考えました。
設計の手法として、神楽坂3丁目の特徴ある4つの敷地をトレースし、地図の輪郭をなぞり、平面化します。そこから、壁を立ち上げ、各フロアごとに全く違った特徴を持つ空間を積層させます。
各階の人のふるまいは、神楽坂の街の出来事のように変わっていきます。
受賞の感想
日月会賞は、プレゼンテーションをする上で大きな機会となりました。
審査員の方には、作品に対する多様な質問や意見があるので、プレゼンテーションの最中に言葉が詰まってしまう事があり、自分の引き出しのなさを実感しました。
しかし、沢山の方と話す内に自分の伝えたい事は何なのか、少しずつ分かっていき、その場でプレゼンテーションを構築し直していく事が大変であり、また楽しかったです。
七夕賞受賞作品
よく沿う、よりそう
松本 麗佳子 (高橋・増田スタジオ)
審査員評
審査委員長:小倉 康正(18期)
太陽賞
『探索の棚 継承の棚』 野口 友里恵(高橋・増田スタジオ)
蛇のようにうねる棚。これが建築の背骨である。一方、周囲に肉付けされた部屋もまた棚の構造を持っている。この2つの性格の異なる棚が継承と探索の役割りをになう。どちらも子供たちを観察する中から抽出してきた行為だ。野口さんの分析力と、2つのキーワードを導きだした想像力を評価したい。また、リサーチからキーワード(タイトル)にいたる過程説明にも説得力があった。
遊具的な形態となったのは子供たちの行為をテーマにした結果であろう。とすると、気になったのは睡眠や休息といった休む行為についてだ。グループホームという住まいにおける安息の棚も見てみたかった。
満月賞
『INOKASHIRA RUNNING STATION』 安倍 直人(高橋・増田スタジオ)
ループする遊歩道。屈曲部分はサービスステーション。人々はここで着替え、ランナーとなって井の頭公園へと繰り出す。走る軌跡をなぞったようなラインは、きっと彼らの気持をそそるはずだ。テーマとして与えられたスポーツ施設をランニングステーションへと翻案したセンスも買いたい。「実現することで界隈性が強化されたり、場所のもつ可能性が発見されるような建築・空間を・・・」という課題に見事に答えている。・・・なのに、なにか足りないという感触が残った。審査会ではうまく言葉にできなかったが、いま考えるのは、用途がなくなっても持続する建築としての存在感。といったものだ。
三日月賞
『The space of unit’s bamboos』 立木 真央、梅澤 昌平、小林 総司(宮下・橋口スタジオ)
竹による正四面体ユニットの4つの角には、もう一回り小さな正四面体がひかえている。この入れ子関係を発見したことでユニットは構造として成立し、同時にユーモラスな表情ももつことになった。そしてどこかノンスケールな雰囲気が漂う。つまり原寸でありながら、あまり原寸的な印象をもたないのだ。 その感じはユニットを活用した高層体の模型を見ても伝わってくる。この抽象性を獲得したことで、 竹という素材と格闘しながらも、その存在感に甘えない作品になった。
新月賞
『積層する地図』 池川 健太(長尾・河野スタジオ)
神楽坂の路地。この魅惑的な空間を無視してここで建築を計画するのは難しい。 一方、中層ビルにいかに路地を取り込むかという立体構成論になってはつまらない。
池川くんは神楽坂の典型的な街区を切り取り、それを積層することで建築とした。手法自体は新しいものではない。重要なのは、この手法によって路地の魅惑に足をすくわれることを回避し、同時に現代都市がはらむ矛盾も提示できたことである。作品は神楽坂を契機としながらも、その枠に限定されないものになった。 このスタンスからは、日本に限らない、たとえば東南アジアの路地に目をむけることも可能であろう。
七夕賞
『よく沿う、よりそう』 松本 麗佳子(高橋・増田スタジオ)
タイトルの語呂合わせにあるように、浴槽(銭湯)と既存街区に沿うことをテーマにした作品である。井の頭公園へとゆるやかにくだる坂道との丁寧な擦り合わせや、周囲の家並に沿う態度に、周辺条件を大切な手がかりにしている姿勢がうかがえる。一方で、木造軸組にこだわった設計からは建築としての自立性を獲得しようとする意志を感じることができる。 つまり、他人の声を聴きながら、自己を主張するという難しいテーマに取り組んだ作品ということができるだろう。その分、課題ヘの対応は後方にまわったが、松本さんの建築観は十分に伝わってきた。
審査後記
日月会賞では学生と審査員が出品作について一対一の対話をする。その後審査員は自分が推す作品を胸に審査会にのぞむわけだが、この一対一の対話が日月会賞の特徴である。もちろん図面・模型あるいは原寸で表現された内容が基本だ。それは変わらない。しかし対話の中で見いだされたことはひとつの宝物である。だからできるだけたくさんの宝物を探し当てたい。はたしてそれができただろうか?
宝物にはいろいろあって、学生の意外な一面に触れることができると素直に嬉しい。作品のバックボーンや本音と建前が見えてくるのも対話を通しての場合が多い。その一方で目の前を通り過ぎてしまう宝物もある。その時は黒く淀んだ姿をしているので過ぎ去るにまかせてしまう。後になって一皮剥く手間を怠ったとか、光の当て方を間違えたと知るのだ。
いつか賞の無い対話だけの会があっても良いようにおもう。いずれにしても、貴重な機会を与えてくれた日月会の方々、研究室の方々、そしてなによりも参加してくれた学生達に感謝したい。
審査員:清水 隆之(33期)
太陽賞
『探索の棚 継承の棚』 野口 友里恵(高橋・増田スタジオ)
児童養護施設を、探索の棚と継承の棚という2種の棚で解いた案であった。プレゼンテーションもわかり易く、明快で、力強い案であった。特に「おさがり(継承)の棚」が外部へと伸びて、橋や屋外遊具へと変化していく構想が素晴らしかった。
一方、明快な図式が「おさがりは嬉しくない」という弟・妹の気持ちに対しては応えられるのか気になった。そこには「棚からぼたもち」のような不条理な歓びが空間に必要でないかと思えた。例えば、アルド・ファン・アイクのアムステルダムの孤児院を参考にして貰いたい。
満月賞
『INOKASHIRA RUNNING STATION』 安倍 直人(高橋・増田スタジオ)
井の頭公園にランナーが多いことに着目し、与えられた「スポーツ施設」という課題から「ランニングステーション」へと飛躍した提案であった。課題に対しての観察と飛躍は素晴らしかったが、巨大な専用コースを設ける施設計画には疑問を感じた。
ここでは、ランナー/散歩者のスピード、ランナー/散歩者の好むコースなどの微差を観察して、空間をつくることが大事ではないかと思えた。
三日月賞
『The space of unit’s bamboos』 立木 真央、梅澤 昌平、小林 総司(宮下・橋口スタジオ)
竹を主に用いて、トラス状に組上げていく案であった。トラスの勾配を活かしたベンチや、フラードームのような巨大な構想など個人製作に比して提案の飛躍があり、3人で制作することの良さが出ていた案であったが、更にもう一歩踏み込んで、対話によりアイデアをひとつに洗練させていくと、作品はもっと良いものになったのではないだろうか。
新月賞
『積層する地図』 池川 健太(長尾・河野スタジオ)
神楽坂の多様な街並を立体的に積み上げた提案であった。各階のプランは全く違う地図から導き出されたもので、猥雑さを期待させるものがあったが、完成したものは不思議に整合性があり、やりたいことの焦点がぼやけたような感じがした。
ここでは表現を間引く視点、構成を簡略化してシンプルに見せる視点をもつと、プレゼンテーションが更に上手くいったのではないだろうか。
七夕賞
『よく沿う、よりそう』 松本 麗佳子(高橋・増田スタジオ)
井の頭公園伊勢屋跡地に計画された銭湯の案であった。緻密な模型と内部空間の豊かさに大変魅力を感じた。タイトルにある「よく沿う」が「浴槽」に掛けていたと気づいたのは帰宅してからで遅すぎたが、そのような明るいユーモアのある空間であった。
三賞には至らなかったが、学生主催の「七夕賞」を授与されていたのが幸いであった。男女が壁を挟んで入浴する様子などはまさに七夕的で、良質な作品に似合う授賞であった。
その他
『循環と滞留の複合施設』 小林 恵理(高橋・増田スタジオ)
書店とシェアハウスを複合させる提案であった。利用者の滞在時間の違いから動線を練るなど、不完全ではあるが意欲的な試みがあり、鉛筆書きの空間のイメージと相俟って、魅力的な作品であった。
断片的な空間のイメージを追求して、豊かな発想を更に膨らませて貰いたい。
総評
3年生にとっては、この夏から卒業制作までがひとつの大きな製作期間になるのだと思う。自分が惹かれる題材を見つけ、他人の意見に耳を傾け、表現を洗練させた卒業作品を見てみたい。
今回審査した作品は全て、その可能性を感じさせるものであった。これから試行錯誤を繰り返して製作される卒業作品が大変楽しみである。
審査員:鈴木 竜太(36期)
太陽賞
『探索の棚 継承の棚』 野口 友里恵(高橋・増田スタジオ)
公園に隣接した敷地に児童養護グループホームを計画した作品である。2種類の「棚」から発展させて建築を構成している。アイデアから建築へとうまく発展させて、それが模型や図面に上手にまとめられていた。その中で僕が一番評価した点は、建物内部の棚が敷地外部(公園内)まで延長して、それが遊具になっているという点である。その建築の一部である遊具を使って、外の子供たちが遊ぶというストーリーに魅力を感じた。現実的には、そこで一般の子供たちとの直接的な交流は難しいかもしれないが、グループホームの小さな住民たちにとって、外の子供たちがその遊具で楽しむことは、その遊具=室内の棚=自分たちの住宅と繋がり、その建築に誇りを持て、自慢の家と感じるのではないかと思う。住民である子供たちの気持ちをよく理解した上で、建築に反映させたすばらしい作品であると思う。
満月賞
『INOKASHIRA RUNNING STATION』 安倍 直人(高橋・増田スタジオ)
井の頭公園の市民ランナーのための施設である。課題への解答として切れ味よく答えた作品であると評価された。「スポーツ施設」という課題に、実際にスポーツする空間を作らず、そのスポーツ(ランニング)を補助する施設を計画している。正直、僕は説明を聞いてもあまり魅力を感じなかった。なぜかというとアイデアは鋭く面白いかもしれないが、建築としてはどうなのだろうか?と疑問を感じた。模型を見ると小さくまとまっているようで、実際はすごくスケールアウトした土木的構造物の様な印象を受けた。また市民から愛されている公園にランナーの為だけに、ここまでの構築物が必要なのだろうか。課題に対するアイデアの着眼点と共に、そこから建築設計に落とし込む作業に、もう少し比重を置くと更にすばらしいものができるのではないかと思う。
三日月賞
『The space of unit’s bamboos』 立木 真央、梅澤 昌平、小林 総司(宮下・橋口スタジオ)
正四面体に組んだ「竹」を一つのユニットとして、それを複数個組み合わせて空間をつくるという作品である。実物を複数制作して体験できるように展示した。1/1サイズでつくることは、模型制作とは別の問題が多く出てくることであり、それを恐れずにまとめ作り上げたことが評価できると思った。接合部や素材の強度や耐久性などに苦心した後が見てとれ、作業にかけた努力も十分に伝わった。ただ、発展性へのアイデアに弱さを感じた。模型ではかなり巨大に発展させたものが表現されていたが、最終的には現実的な厳しさを1/1モデルを通して理解したと思う。思考を巨大さへ進めるのではなく、正四面体と素材の軽さを活かして、回転させることで機能や空間を変化させたらどうだろうか?などと空想させてくれた作品でもあった。
新月賞
『積層する地図』 池川 健太(長尾・河野スタジオ)
東京神楽坂の街のつくられ方(地と図の関係)の多彩さに注目した作品である。実際の神楽坂の地図を分類ごとに複数トレースして縮小し、それを計画建物の平面に置き換えて積層させることにより各階で異なる空間を持つ建築の提案である。手法としてのアイデアに偏っている印象を受けた。もし手法のみの提案であるならば、その手法を使って作った建築の魅力をさらに伝えてほしかったと思う。また積層した断面にこそ魅力が現れるように感じたが、計画的にも表現的にも断面への着眼が弱いように思った。模型や表現にかける情熱と、割り切る事での力強さは評価できると思う。
その他
『小さな本のギャラリー』
受賞は逃したが面白いと思った作品。公園内に小さな本のギャラリーをつくる案で、素朴な建築に小さな建築的アイデアが多く詰め込まれている印象を受けた。「大きなワンアイデアではない作品を作りたかった。」という制作者の言葉にも共感が持てた。彼女なりの価値観が作品全体に現れているように感じる。小さな工夫の積み重ねによる建築で、派手さはないが実際にできたら良い建築になるだろうなと想像できた。ただ表現までが少し遠慮気味だったことが少々残念である。小さい部分への注目を、大きく堂々と表現すれば良いと思う。
その他
『こげんしビル』
公開講評で議論になった作品である。建築的造形力がすばらしく、また建物上部のみの開口から壁を沿わせて光を落とすという空間的な魅力も強い作品であった。制作者の作りたい建築はよく理解できたが、1階に児童館を計画していることに僕は大きな疑問を感じた。美術館や劇場なら成立するかもしれないが、子供のための施設としてはどうだろうかと思う。子供を持つ親としては、そこまで閉鎖的な児童館が子供にとって魅力があるだろうかと考えてしまう。また開口部が少ないことでの照度不足は、照明器具により解決するという説明も建築的な自己矛盾を感じる。過激な(過激と思われる)ハードを提案する時は、特に慎重にソフト面を考えなくてはいけないと思う。
総評
日月会賞の審査員として、現在の建築学科学生と課題を通して様々な事をお話できた事は、僕にとってとても刺激的で有意義な時間となりました。審査では、多くの作品の説明を直接学生本人から聞きながら、約10年前になる自分の学生時代を思い出し、当時の自分と重ね合わせていました。作品の表現としては、良いのか悪いのか10年前とそんなに変わらない印象を受けました。そこにムサビの建築らしさが潜んでいるようにも感じます。
僕が学生の時に、ある他大学の同学年の学生たちと共同で課題作品を展示する機会がありました。その展示作品を見比べて、当時の僕はムサビ生の作品のボリュームや表現の量が劣っていたように感じ、負けたような残念な気持ちになりました。その事を当時、今回の審査委員長である小倉先生に話したら、「ムサビの建築は、学生に課題について悩ませることに多くの時間をかけさせる。だから最終表現の制作にかけている時間の割合が違うんだよ。作品一つ一つの中身を良く見てご覧、決して負けてなんかいないから。」という言葉を頂きました。この言葉は10年経った今でも僕の心に強く残っています。この悩む・考えるという所に時間をかけることが、ムサビの建築らしさの一旦をつくり出しているのかもしれません。
学生の説明を聞く側、審査する者としては、着眼点の面白さや、説明している内容が作品に適切に表現されているか?矛盾がないか?などを考えながら審査します。ただ僕が学生だった頃の事を考えると、多くの学生が課題を考えながら苦悩し、その中で価値観が揺れ動き、矛盾点を抱えながら(分かっていながら)、時間的プレッシャーに押され、最終制作物をバタバタとつくり上げなくてはいけないという事が多かったです。そのギリギリの中でうまく成果物として吐き出せた作品は評価されたし、うまく出せなかった作品は評価されなかった。それらの内容としては本当に微妙な差だったように思います。今思えば、学生にとって大事なことは矛盾なくまとめられたことによる評価よりも、自分の作品をつくり出すまでにかけた膨大な過程の時間だと思います。時には苦しく、落ち込み、また時には雷のごとく閃き、道が突然拓けたような高揚感など、課題に深く潜るからこそ現れる一喜一憂するそれらの時間です。
賞をもらえた学生も、もらえなかった学生も、引き続きこの悩む・考える時間を恐れず、また放棄することなく一生懸命課題に取り組んでほしいと思います。
審査会当日の様子
2013年7月6日(土)に、第15回日月会賞が開催されました!
今回は、初の試みである公開審査会が行われ、審査会場は終始熱気溢れる議論が展開されました。
審査は、審査委員長小倉康正氏(18期)をはじめ、
池野 秀基氏(2期)、石原 信氏(12期)、下村 治子氏(21期)、清水 隆之氏(33期)、佐藤 恒一氏(23期)、鈴木 竜太氏(36期)、井口 雄介氏(41期)で行われました。
それぞれの「建築」へのこだわりが審査結果にも現れていたように思います。
そして、特別賞として、昨年の受賞者から贈られる「七夕賞」が授与されました。
例年以上に白熱した第15回日月会建築賞。
これで終わりかと思いきや? 今年はさらにさらに、46期の有志によって日月会建築賞の審査対象とならない2年生に賞を贈る、「ぷれこうひょうかい」も行われるなど、ムサビケンチクのOBOGと在学生が一体となって盛り上がりを見せた日月会建築賞となりました。
受賞者のみなさん、おめでとうございました!