19回 日月会建築賞

2017年度

開催情報

開催日

2017年7月8日(土)

審査員

審査委員長

中村 文美 32期/もば建築文化研究所 副代表

審査員

迎川 利夫 10期/相羽建設株式会社 常務取締役
遠藤 治郎 24期/フェスティバルデザイナー
小澤 祐二 40期/ピークスタジオ一級建築士事務所 共同代表
佐藤 仁美 46期/アーティスト

太陽賞受賞作品

ART SQUARE

松下 峰大 (源・笹口スタジオ)

受賞のコメント

今回はこのような素敵な賞をいただけて光栄です。これだけ多くの方に一度に講評していただく機会はとても貴重で、良い経験になりました。評価していただいた所も酷評された所も含め、講評でいただいたアドバイスを今後の制作に活かせていけるよう努力を重ねていきます。

審査委員長からの講評

設計課題である「建築のタッチ」を、植生(芝生)に対する人の関わりを通して検証し、歴史と軌跡の蓄積として読み解き計画におとした作品。自由な起伏のある地面にフラットな建築をそっとのせ、地面と建築との距離感により空間への人の関わりを操作し、さらに美術館の鑑賞者の視点に立ち作品との距離を操作し、さらに制作過程をみせるというしかけを加えている。美術館への「タッチ」を、空間と時間軸の両者に対して試みた作品として、一次審査において多くの審査員の票が集まった。

満月賞受賞作品

Fragmental nostalgia

ドロテア・ブランク (鈴木・常山スタジオ)

審査委員長からの講評

公共建築・空間としてこなすべき要求が高い課題であったが、敷地北側に計画された都市計画道路からのアプローチを丁寧に検証し、用途に応じた規模で共通するデザイン要素をもった3種の建築を計画的に配置している。3種の建築には、折紙のような複雑な勾配屋根や、リズム感のある格子の表現を用いており、どこか日本らしさを感じた。プログラム構成や計画過程を示す図面表現が、繊細で美しい作品であった。

三日月賞受賞作品

TUTUTU

渡辺 大輝 (源・笹口スタジオ)

受賞のコメント

私は「建築のタッチ」という課題においてフォリーと美術館を相関関係のある中で設計しました。トリミングというとてもシンプルな動機からはじまり、そこからの発展と試行でこういった最終成果物となりました。日月会建築賞への参加を決めてから自分の作品を見直すことで見えてきたものもあったり、プレゼンを一日のうちに何度も重ねることで、作品のどこを説明すればよいのか?どうすれば伝えられるのか?といった思考と試行も重ねられる良い機会でした。このような好機及び賞をいただけたこと喜ばしく思います。ありがとうございました。

審査委員長からの講評

第一課題である「フォリー」から生じた有機的な形状を、美術館という機能をもった箱の建築におさめていく過程を丁寧にプレゼンしてくれたのが印象的であった。展示室として整った空間と、巨大でやわらかな形状の筒に包まれる空間が、美術鑑賞の場として心地よく、軽快なメリハリを与えているように感じた。難解な「建築のタッチ」という課題に果敢に取り組んだ作品であったと思う。

新月賞受賞作品

Formed from Form

磯野 信 (源・笹口スタジオ)

受賞のコメント

「プライベート」と「外部」が互いに心地よくつながる距離感とはどんなものなのか、また敷地である中野区の人口構成に着目し、この場に適応していく集合住宅をまっすぐに解くことを意識しました。
それは同時に挑戦でもありましたが、私の素直な設計を評価していただき、大変うれしく思います。同時にこの課題を今回だけで終わらせない、次の段階へと進めていけるアドバイスを様々な視点からいただくことができ、とてもいい経験となりました。今後もさらに設計のレベルを上げられるよう、努力を積み重ねていきます。ありがとうございました。

審査委員長からの講評

コンクリートの型枠に「建築のタッチ」を感じ、型枠をコンクリート壁面と対応して残置させた素材への追及が面白い作品であった。建築の造作過程では登場するが、竣工してしまえば姿を消す材料は、工法により様々なものがあるので、今後ぜひ他の工法に対しても興味を持ち、設計に取り組んでもらいたいという期待と、その時磯野君の探究心はどのような化学反応をおこすのか見てみたいという興味が湧いた。

七夕賞受賞作品

・・・

渡邉 昌平 (源・笹口スタジオ)

受賞のコメント

この度は日月会建築賞をいただくことができうれしく思います。3年生の建築への強い志をもった有志が集まる中で選ばれたことは、これからの建築に関わる活動をする上で勇気をいただけたように感じます。あと一年と半年、彼らと切磋琢磨しながら設計活動に取り組めることが楽しみです。ありがとうございました。

審査委員長からの講評

課題主旨である「市民が美術をより身近なものとするための多様な活動拠点」を受け、市民や鑑賞者が身近と感じる「タッチ」は様々であり、その要求に答えるための空間づくりを試みた作品であったと思う。計画における視点を、設計者主体ではなく利用者においた解答の導き方が興味深く、完成した作品としては、遊具のような「フォリー」を並べた楽しさ溢れる作品であった。

審査員評

審査委員長:中村 文美(32期・合同会社もば建築文化研究所)

この度、「実測学校」の活動に対し、第1回長尾重武賞を共同受賞(小倉[18期]、朝比奈[18期]、田邊[31期]、中村[32期]、寺阪[34期])したことをきっかけとして、日月会建築賞の審査委員長を務める機会をいただきました。今回の審査では、実測学校に参加をしてくれている現役生が、大学の課題でどのようなことを考え、作品づくりをしているのかを知る機会にもなりました。

 

異なる4課題の主旨を理解し審査する作業は過酷とはいえ、与えられた5時間があれば時間的余裕があるかと考えていましたが、学生個々から受ける熱いプレゼンに刺激をうけ、アッと言う間に時間となり、私自身の訓練にもなりました。力作揃いの作品を最終的に3作品に絞るということに苦労しましたが、昨年の受賞者(4年生)が、審査員のサポートについて、3年生のプレゼン時間と質疑の時間配分をしてくれたことがとても頼りになりました。

 

今回の審査では、審査員の票がかなり割れて、一次審査を通過した10作品の結果は最終的にも僅差であったように感じています。結果的に源スタジオの課題に受賞者が集まりましたが、他のスタジオにも輝く作品が多かったので、その感想も交えた総評にしたいと思います。

 

源・笹口スタジオの課題は、「タッチ」という建築の側面を意識し、国立市に美術館を設計するものであった。「自身の考える建築的問題はなにか、それをタッチという側面から建築やその周辺環境を形にしてゆくとしたら」という提示に対し、学生が「タッチ」と格闘しながら第一課題のフォリーに取り組み、第二課題の美術館設計に進むという段階を踏みながら成長していく過程をプレゼンしてくれたため、感情移入しながら評価をしやすい課題であったことも受賞者が集まった要因かもしれない。受賞作品以外に、国立のやわらかな印象を曲線で表現した川村恵美さん、コの字型のプランに周辺市民の動線を取り込んだ寺本更さんの作品に評価が集まった。

 

川村 恵美「a place in the light」

寺本 更「くにたち美術館」

 

小西・奥野スタジオの課題は、青山に宿泊施設や多目的ホールを併設する地上8階建以上の武蔵野美術大学のサテライトキャンパスを提案するものであった。3年の課題として高層へのチャレンジは刺激の強い良い挑戦であったように思う。特に、各自の設計主旨と構造を一致させる作業には、学生それぞれの個性あふれる作品が多かった。特に、ジャックと豆の木というテーマを持った南雲雄大君と、花びらから考える集積構造を見上げる高層建築を美しく表現した田中智広さんの作品は、設計主旨と構造理論を綺麗に合致させており評価が高かった。

 

南雲 雄大「Bean stalk」

田中 智広「花びらから考える集積構造の大学キャンパス」

 

鈴木・常山スタジオの課題は、小平市に地域資源に基づいた未来のまちを提案する、公共施設・空間を設計するものであった。要求される施設機能が多く、現実味の高い課題であったと思う。受賞作品以外に個人的には、本来の小平の敷地割や歴史をデザインとして継承した水野幹大君の作品や、低層で抑え身近なコミュニティを大切にし公共施設らしさを良い意味で払拭した山下千彩貴さんの作品を評価したい。

 

水野 幹大「ハコものが紡ぐ小平」

山下 千彩貴「結 -ゆい- 」

 

菊地・三家スタジオの課題は、都立東大和南公園内の歴史遺構と現在を繋ぐビジターセンターを設計するもので、今回2点の作品応募であった。どうしても同課題の作品を比較しながら評価をしたくなるため、審査の難しさがあった。歴史遺構、特に戦争遺産という重い歴史をどのように受け止め、新たな施設との関係性を築くのかがテーマとなるが、桑原萌さんの作品は、建築の生と死と捉え「隧道(ずいどう)」で繋ぐという独自の視点が光る計画であった。

 

桑原 萌「ずいどう」

 

日月会建築賞は、1対1のプレゼンと公開審査を通して、先輩後輩の学生間・卒業生・教員という、世代を超えた豊かなつながりを生む素晴らしい企画だなと、現在の学生を羨ましくも思いました。学生皆さんの今後の活躍が楽しみであると共に、私自身も背筋を伸ばし、自分の取り組みを見直す良い機会となりました。日月会建築賞を運営された皆様、誠にありがとうございました。

審査会当日の様子

一次審査風景

限られた時間でのプレゼンに熱がこもる

小津会長 開会の辞

公開審査

公開審査を聴く真剣な表情

審査委員長からの表彰
太陽賞 松下 峰大さん

満月賞 ドロテア・ブランクさん

 

審査員の皆様、お越しいただいたOB・OGのみなさま、お忙しい中そして蒸し暑い中での審議ありがとうございました。
本当にお疲れ様でした。
今回から審査方式が少し変わりました。
効率よく全員のプレゼンを聞くために、一層短い時間でアピールしてもらうことになり、限られた時間でのプレゼンに熱がこもりました。
新月賞への投票も点数方式が採用され、たくさんの会員のみなさまよりお言葉をいただきましたので、一部をここにご紹介させていただきます。

 

●渡辺昌平さんの作品は、建築の言語化に取り組んでいる。これをストーリー化していくことに是非トライしてもらいたい。(21期・高津 尚悟)
●今後発展していけると思われる作品として、田中智広さん、大塚悠貴さん、磯野信さん、小池正真さん、ペク・スンゴンさんを選びました。(22期・向田 良文)
●磯野信さんの作品は、建築工事時の一瞬を写しとることでタッチを表現しており興味深い作品。建築と仮設の間をいく感覚が新しい。(34期・内海 聡)
●山下千彩貴さん、井上陽介さん、菊池響一郎さん、水上紗希さん、寺本更さんの作品を、課題の読み解き方とコンセプトの組立て方、プレゼンの話し方の良さを考慮して選びました。(34期・寺阪 桂子)
●小池正真さん、井上陽介さん、井口和樹さんの作品を、外部空間へのアプローチ・情報の編集・デザイン力の観点から選びました。(46期・瀧澤 純希)

 

日月会建築賞にエントリーして、たくさんの先輩にプレゼンしたこの日の収穫は大きかったのではないでしょうか。
学生のみなさんのますますの発展の力になれれば嬉しく思います。