第21回 日月会建築賞
2019年度
開催情報
開催日
2019年7月6日(土)
審査員
審査委員長
林 英理子 | 27期/LYSNING、児島舎 主宰・2018年度 長尾賞 受賞 |
---|
審査員
岩下 泰三 | 15期/スペースラボ 主宰・2018年度 長尾賞 受賞 |
---|---|
岩岡 竜夫 | 16期/東京理科大学理工学部建築学科 教授・2018年度 長尾賞 受賞 |
野本 哲平 | 40期/民具木平 主宰 |
井手 孝太郎 | 22期/アールテクニック一級建築士事務所 主宰 |
エントリー作品数
25作品
エントリー課題
菊池・三家スタジオ: | 「神宮前に作るストリートカルチャーの郷土資料館」 |
---|---|
小西・奥野スタジオ: | 「集積する構造によって劇場のある複合施設を設計する」 |
高橋・針谷スタジオ: | 「都市の環境単位 - 武蔵新城」 |
源・笹口スタジオ: | 「くにたち美術館 建築のタッチ」 |
太陽賞受賞作品
縫い道
前田 汐理 (高橋・針谷スタジオ)
受賞のコメント
日月会建築賞というとても有意義な機会と、このような評価をいただけましたこと、大変嬉しく思っております。ありがとうございました。
今回の敷地がとても特異であったために、この「ジグザグ」の形に至りました。ジグザグを追究していくと、構造的メリット、間取り上の視線カットそして、内外の曖昧さ、具体的に言いますと外壁がインテリアの内壁として見えてくるなどたくさんの発見がありました。このような発見、発見する喜びをこれからも大切にして設計していきたいと思うことができました。
審査員からのコメント
直角三角形を回転させてボイドを作ることで、短冊状の敷地にリズムを生んでいる。レーザーカッターで切り出したという手跡の残る模型がなんとも魅力的。
[審査委員長/林 英理子]
審査員からのコメント
細部まで作品に入り込み、体感的に検討作業を集積した結果の形態、であることが分かり好感が持てる。迫力ある模型外観の説得力は秀逸だし、口頭のプレゼンテーションも良かった。ただ、この形態が生んだ最大の特徴であろう内部空間がプレゼンからもう一つ共有出来ないのが残念。
[審査員/井手 孝太郎]
満月賞受賞作品
綴られていく
二又 大瑚 (高橋・針谷スタジオ)
受賞のコメント
都市における現象的な顕を「ポケット」として定義し、建築と街において魅力となる商店街との共通言語とし設計しました。現象は計画し得ないという考現学における考えを設計において、現象を誘発する操作を行うことで現用は計画しうるという可能性を見出す試みを行いました。
しかし、コメントにもいただきました「未来においてそのポケットがどのような効果をもたらすか」を表現することは最も重要なことだと思います。
この度はこのような機会、又、二つの賞を下さったことに深く感謝し、今後の設計をより良いものとできるよう邁進して参りたいと思います。ありがとうございました。
審査員からのコメント
三角形の敷地をうまく利用し、シンボル的な外部空間を提案していると思った。
内部空間の構成がもう一捻りあると良いとも思う。
[審査委員長/林 英理子]
審査員からのコメント
全体構成と共用部の検討はとても意欲的なのだが、外部の人が入り込んでなんぼの計画なのに、僕にはシェアハウスとその共用浴室にしか見えない事、またその個室および浴室の計画があまりに貧弱な事、が大きなマイナス要素であった。はたしてどれだけの人がこの浴場に魅力を見出して積極的にこの建物に入って行くか ? 本題の設計にもっと興味を持って貰いたかった。
[審査員/井手 孝太郎]
三日月賞受賞作品
見えがくれ
眞貝 悠輝 (小西・奥野スタジオ)
受賞のコメント
この度は、素敵な賞をいただき、大変光栄に思います。今回の課題は、スケールが大きく、用途が決まっており、どのように集積する構造と重ねていくか、というところを何度も試行錯誤を繰り返しました。日月会建築賞は、たくさんの方々の意見を聞く事ができ、自分の中で勉強になることが多々ありました。このような素晴らしい貴重な機会を設けていただき、ありがとうございます。
審査員からのコメント
外部空間や街との関係性と構造についてどう考えたかを聞きたかったです。
[審査委員長/林 英理子]
審査員からのコメント
スケール差の有る内部機能を包括的に網羅する構造システムの発見、という課題に見事に答えた好案。禁欲的な外観にダイナミックな内部構造が透けて見える構成は、学生の課題としてはあまりに大人。ただ皆に言える事だが、共用部や全体構成の仕組みには熱心なのに、劇場やホテルと言った課題の本題部分に興味が無いほど素っ気ないのは何故だろうか?
[審査員/井手 孝太郎]
新月賞受賞作品
潜在都市
西津 尚紀 (高橋・針谷スタジオ)
受賞のコメント
この度は、私の作品を新月賞に選んでいただき本当に嬉しく思います。審査時間や懇親会で様々なことを得ることができとても成長できたと感じております。
今回の作品では、「住宅+αー都市の環境単位ー」という課題に対し、武蔵新城の環境単位を道や隙間と捉えそれを内部空間に落とし込む操作を設定し設計しました。
最終審査で多くの意見をいただいた外皮の壁はいるのか、という問に上手く答えられなかった悔しさが今でも残っています。私の強みである建築のプロポーションや美しさへのこだわりを伸ばしつつ、建築をきちんと言語化する力、ソフトやプログラム等を意識することを課題とし、この経験を今後の作品作りにも生かして精進していきたいです。ありがとうございました。
審査員からのコメント
断面模型がとても魅力的。外壁や屋根があるかないか問題は私もいまだに考えています。もう少し聞きたかった。
[審査委員長/林 英理子]
審査員からのコメント
内容・表現共に質の高い作品。コンセプトである壁の厚みと内外の関係自身は面白いし、1階に街区を引込む構成も共感できる、が、わざわざ引き込んでおいて距離を取る(1階に水周りを配置)二つの組合せには疑問を感じた。自分のコンセプトや理論に疑問を持ってもらいたかった。
[審査員/井手 孝太郎]
七夕賞受賞作品
綴られていく
二又 大瑚 (高橋・針谷スタジオ)
受賞のコメント
満月賞と同文
審査員からのコメント
満月賞と同文
審査員評
審査委員長:林 英理子(27期・LYSNING、児島舎 主宰・2018年度 長尾賞 受賞)
5分程度、一対一で学生のプレゼテーションを聞き、コメントして、採点という日月会賞方式。いまだに多くの作品を思い出し、その日に交わされた言葉のお数々、自分の採点などを考えています。
どの提案もキラリと光る良さがあり、それを自覚して建築的提案で表現できた人、できなかった人。
設計提案を客観視して表現しきることは難しいですが、それを他者である卒業生を使い倒して獲得する場所。一日道場のような日月会賞でした。参加した全ての学生はこの一日から何かを掴み取り、評価された人も反省点がある人も各々自信を持って次なる提案に取り組んでもらいたです。
私自身も審査に参加することで、学生から多くの刺激を受けました。プレゼンしてくれた学生の皆さんありがとうございました。
分刻みの時間配分をうまくサポートしてくれた4年生にも感謝いたします。
「建築タッチの」課題は、あらゆる方向に開かれた興味深い課題だと思いました。「難しい課題」というコメントも聞かれましたが、学生だからこそ難解な問いに対し、頭と体を使い建築的な回答で表現することがとても貴重で重要なのではないでしょうか。かつての竹山実先生の課題がそうだったように。
“ムサビズム”が育つ土壌はどう作られてきたでしょう?(4年生の設計計画を担当していても思うのですが、現実的な建築提案を求めすぎる課題が多いように思うのです。自戒を込めて)逆にいうと、学生達には課題で求められている事にも疑いを持って取り組んでほしいと思います。
審査委員:岩下 泰三(15期・スペースラボ 主宰・2018年度 長尾賞 受賞)
審査会から20日ほど経って、審査コメントを書くことになった。
審査員中最高齢の頭では20日前のことは記憶の彼方。資源回収の紙の山から審査時のメモをサルベージできたが、それでも記憶は曖昧な作品が多い。記憶に残ったことだけのコメントでお許しいただきたい。
審査時にも言ったとおり、一時審査で私が投票した作品のうち半分は一次を通過しなかったが、そのこと自体は当然だと思っている。そもそもトレンドだとか流行りだとか、そんなことに全く興味がないのだから。
現代の変化のスピードを考えたら、今の学生が今のトレンドに合わせることに何の意味があるのか理解できない。本質的な問題を見いだせるセンスと、見出した問題に自ら答える思考力・創造力。5年後10年後に自分の設計を世に問うことになるであろう今の学生に必要なのは、そんな能力だと思う。その様な視点で審査することを心掛けたつもりだ。
源・笹口スタジオは、前半の課題に問題を見出すトレーニングの成果を感ずることが出来た。しかし後半の課題で、それを建築物に落としてゆく設計力に物足りなさも感じた。その中でMA-02とMA-04に可能性を感じた。
MA-02(touch the moment)は、前半での気付きが後半の断面で上手く活かされているが、平面に表れていないのが残念。
MA-04(うねりの中の美術館)は、前半の物のうねりが後半で空間のうねりに逆転する発想が面白いが、床のうねりが天井のうねりに反転しただけのような見え方になっているのが残念。
久々にムサビに戻ってきた構造系の小西・奥野スタジオは、期待が大きいのでついつい辛口になりがち。意匠のため、機能・用途のために構造が従わされるのでは意味がないと思うのだが、KY-06とKY-07が面白かった。
KY-06(まるみを帯びたシアター)は、平面的に三角形分割のシンプルなフレームを採用しながら、ルーローの三角形で外部を曲面に覆うシステムの、構造と意匠の関係が心地好い。内部にも曲面が入り込む可能性に踏み込んで欲しかった。
KY-07(地形の箱)は、要求された用途に応じたボリュームの違いに、同じ間隔のジグザグの構造を与えると、階高に応じてその斜材の角度に変化が生まれることを意匠に活かして表出する案。ムサビのような、全員が意匠を志向している学生に構造系のスタジオがある意味を目いっぱい感じさせてくれるものなのだが、フィニッシュが悪くてきちんと伝てられていないのが残念。
菊池・三家スタジオは課題が難し過ぎないか?前半・後半どちらの課題も、地域の読み取りの深さと、解かなければならない複雑なプログラムで、それだけで半期掛けて好い内容な気がした。具体的な課題なので、きっちり建築物として詰められていないと、アイディアだけでは楽しめなかった。
高橋・針谷スタジオは「観察、分析、再定義」と「都市の環境単位」という課題設定の取り合わせが上手く、力作ぞろい。ただ「グラデーショナル」の意味が武蔵新城での設計にどう表れたのかがよく解らない。二項対立ではなく中間領域を、ということなのだろうか?
まあ投票をした3点とも賞を取って審査会でも十分話されたから、これ以上書くことも無いだろう。
建築の設計は、調査や実験を積み重ねるだけでは面白くならない。もちろん面白くならなくても、人々の要求に応えられたり社会に貢献できたら、良い設計だという判断基準もあるのだろう。しかしそれではムサビズムではないというのが、たぶん多くのOBOGの意識だと思う。
ムサビズムな設計のためには、どこかでジャンプする必要があるのだ。
ときどきそのジャンプが、過激であることや極端な設計として語る人がいて、まあそれも困るんだけど。遠くに跳ぶためには堅固なジャンプ台が必要だし、高く跳ぶには強靭でバランスの好い跳び板が必要だ。その上で落ち着いて思いっきり跳ぶ。最初はビビッて水しぶき撒き散らす失敗ジャンプかもしれないが、慣れれば空中姿勢を制御できるようになって水しぶきも上らなくなる。上手いジャンプはまったく過激ではない。
そんな落ち着いた跳躍の跡を感じられたものが、記憶に残っていたように思う。
審査会当日の様子
7月6日(土)、年に一度の日月会にとっての一大イベントである日月会建築賞が開催されました。今年で21回目になります。毎年このイベントは建築学科OBと現役学生の一年で最も刺激的で濃密な交流ができる一日となります。
今年は事前の審査委員と執行部の話し合いの中で、審査過程を全てオープンにすることが決まっていました。作品が選ばれる過程を学生の前で全てさらけ出すことで、学生にとってより公平感が生まれるとともに、どのように評価されて順位がつけられるのかが生で観られる刺激的な体験になることを願いました。
13:00、審査委員とOBが作品展示されている会場に出て行き、審査会がスタートしました。今年のエントリー作品は25作品。各作品の前には作者である学生が、待ち構え次々にプレゼンをしていきます。日月会建築賞の最も大きな狙いは、単純に順位をつけて学生に賞を与えることではなく、この13:00~16:30までの3時間半のプレゼンテーションの時間にあります。各学生がまるで野球の1000本ノックのように、次々と来る初めて作品を見る審査委員やOBに自分の作品をプレゼンしないといけません。審査委員やOBはそれぞれの価値観で好き勝手様々な意見やアドバイスを学生に伝えます。その連続により3時間半後には、各学生のプレゼン能力が飛躍的に向上しているとともに、多様な価値観や新たな視点、発見など多くのことを得られているはずです。
毎年のことですが、プレゼンの3時間半は長いようで、あっという間に過ぎます。今年も最後の方は、学生も審査委員・OBも白熱していき、とても賑やかに盛り上がったところでタイムオーバーとなりました。今年は例年に比べてエントリー作品数が少なかった分、一作品にかける時間が少し長くとれ、よりじっくり作品が見られたのではないでしょうか。
16:30、一次投票の集計がスタート。今年はとにかくオープンがテーマなので、各審査委員の点数をエクセルに入力する集計作業までスクリーンで映し出されています。またOBが選ぶ新月賞の投票用紙は、全てホールに貼り出されました。どの審査員やOBが誰に何点入れたかがはっきりと学生に伝わります。
17:00、5名の審査員による公開審査がスタート。司会は今年も日月会副会長の石井健さん。各審査委員に一次投票で選んだ作品についての講評を聞くとともに、選ばなかった作品についても、なぜ選ばなかったのかを聞いていきます。また話題に上った作品の学生にも質疑応答やアピールタイムが例年より多くあったように思いました。それら白熱した議論により最終投票では、順位のつけ方で票がなんども動き、学生にとってはハラハラドキドキの時間になり、また会場は大いに盛り上がりました。
19:30、授賞式スタート。嬉しい学生も悔しい学生もそれぞれにドラマが生まれました。各審査委員からの熱くも優しいコメントは、今年の日月会建築賞がとても素晴らしいものになったことを物語っていました。
20:30、場所を例年と同じの天平に移動して二次会スタート。ここでは審査委員やOBと学生がよりフランクに自分の作品や、卒制、建築、将来などなど、多岐にわたり話が繰り広げられていました。今年は2年生や1年生など他学年の学生の参加も多かったように思います。楽しい充実した一日はあっという間に過ぎ、お開きとなりました。
熱く盛り上げて下さいました審査委員の皆様、参加して下さったOBの皆様、研究室の方々、当日積極的に手伝ってくれた学生たち、今年も多くの方々の協力で、無事に素晴らしい日月会賞が開催できました。日月会執行部一同、心から感謝いたします。また来年もより一層素晴らしい会になるように企画・準備して参りますので、何卒よろしくお願いいたします。
今年来られなかったOBの皆様、来年はぜひ母校の現役学生の元気な姿を見に来てください!