第24回 日月会建築賞
2022年度
開催情報
開催日
2023年1月22日(日)
審査員
審査委員長
安藤 和浩 | 18期/アンドウ・アトリエ主宰・第6回長尾重武賞 受賞 |
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審査員
田野 恵利 | 18期/アンドウ・アトリエ共同主宰・第6回長尾重武賞 受賞 |
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早津 毅 | 26期/Hayatsu Architects主宰、王立英国建築家協会会員、Kingston University 常勤講師、Westminster University external examiner |
吉野 太基 | 44期/アーキペラゴアーキテクツスタジオ |
大山 啓 | 35期/TATO DESIGN株式会社 代表、日月会執行部 |
太陽賞受賞作品
ダンと場
吉村 優里
受賞のコメント
このような評価をいただけてうれしく思います。たくさんの講評をいただき、自身の設計について改めて考えられる貴重な経験になりました。指摘いただいた部分はブラッシュアップし、さらに良い提案にしていきたいです。また自身も思いもよらない作品の魅力を発見していただいたので、新しい説明の仕方も検討しようと思います。参加できてよかったです。このような機会を作っていただきありがとうございました。
満月賞受賞作品
重なるくらし
山田 侑奈
受賞のコメント
この度は、このような機会を設けてくださりありがとうございました。また、素敵な賞を頂きとても嬉しく思います。たくさんの方々から様々な評価を頂き、今後の励みとなりました。この住宅課題では屋根を介して生まれる暮らしを自分なりに考え落とし込みました。選択した敷地との関係性を考慮しつつ、様々な形状のパターンや動線を検討し、当たり前のことかもしれないが屋根というものから試行錯誤することで、課題に深く取り組めたと感じています。この経験を糧に自分の課題点を見直し、これからの設計に生かせるよう追求していきたいと思います。
三日月賞受賞作品
均衡
佐藤 優樹
受賞のコメント
今回は参加者の中で唯一インスタレーション作品で審査に挑みました。建築を仕事にしている審査員の方々に対し、ただ一人設計以外の作品でプレゼンをすることでどんな反応があるのか不安がありました。しかし実際は皆さんが前のめりで質問をしてくださったり、作品の要素に対して新たな提案をしてくださったりと、作品の種類に関係なく様々な意見交換ができて嬉しく思います。
その中で最終的に三日月賞を受賞できたことは大変光栄です。この度はありがとうございました。
新月賞受賞作品
ダンと場
吉村 優里
受賞のコメント
太陽賞との同時受賞のため太陽賞欄に掲載。
七夕賞受賞作品
+☆
藤井 杏莉
受賞のコメント
有意義な機会を与えてくださりお忙しい中ありがとうございました。外からどう見られるのか、という自分の興味をひたすら形として試行錯誤しました。最近ようやく建築の慣習に興味を持ち始めてきたので、勉強頑張りたいと思います。
審査員評
審査委員長:安藤 和浩(18期・アンドウ・アトリエ主宰・第6回長尾重武賞 受賞)
今回の審査会では学生の持ち時間は短いものの、少人数の審査グループを編成したことで日常様々な立場にある審査員の評を個々に聞く機会が得られ、参加した学生にとっては大きな意味があると感じました。また、発表を何度か繰り返すうち批評されたことを学生が意識下に置き、次の発表を組立て修正することも可能だったこと。これらは今回のオンライン審査会の「大きな特徴」になっていてとても意義深いものと感じました。
3年生以外が参加するのは今回が初めてと聞きました。課題への取り組み易さに違いがあったことを差し引いたとしても、1・2年生の作品のレベルの高さに驚かされました。24作品のエントリーがあり、年次の異なる学生が違った課題に取り組んだ結果を同じ土俵に載せて審査する難しさはありましたが、同時に異なる原石の中に違った種類の輝きを見出すような愉しさもありました。
学生にとって課題は単につくるものでなく、考えることでもあります。自分の考えに沿ってどう手を動かしたか、どれだけ手を動かせたかは結果に表れることになります。形にするスキルは学年を経て向上するかも知れませんが、「考える力」を養っておくこともこの時期に必要な鍛錬だと思います。
恣意的な形態操作を経ているのに詩的で魅力のある作品に仕上がっていたり、論理的構築に抜かりはないのに建物を使いたくなる様な魅力に乏しいものになっていたりと表現の奥深さを思い知る一日でもありました。
世の中がコロナ渦から抜け出して大勢が一堂に会する審査会に戻ったとしても、多年次に渡る学生の参加と多くの人から評を聞くことの出来る今回の様な審査会が続けて実施されることを願うばかりです。
受賞された学生の皆さん、おめでとうございます。
また、最後になりましたが審査の進行を助けて下さった4年生の皆さん、日月会関係者の皆さん大変ありがとうございました。
審査委員:田野 恵利(18期・アンドウ・アトリエ共同主宰・第6回長尾重武賞 受賞)
2022年度日月会建築賞選定にあたり
「家づくりのお手本」で第6回長尾重武賞をいただきました、1985年卒業のアンドウ・アトリエ田野恵利です。これはパートナーの安藤と事務所を始めて21年分の住宅の仕事をまとめた本です。大変苦労して出来上がった本が評価され、大変うれしく、光栄に思っています。
さて、私の経歴を紹介させていただきますと、吉村順三事務所でのアルバイトが縁で本校卒業生の中村好文の事務所で住宅の設計を、トムヘネガンと共働していた安藤に誘われアーキテクチャーファクトリーで公共建築を、アンドウ・アトリエでは専ら住宅の設計をしております。
卒業後何度かアンドウ・アトリエでの仕事を建築学科でお話しする機会があったのですが、そのたびに女子学生が増えていることを感じておりました。私たちの学科生時代には女子の比率は四分の一でした。今は性別に関し、話題にすることもないほど女子が建築に携わることが普通になっています。今回の応募作品を見て更に頼もしく見えました。
特に太陽賞の「ダンと場」吉村さんの作品は大胆でおおらかな視点に立ったものであり、公共交通機関と道路、公園をつなぐ図書館が段々になっている計画。普段住宅の設計をしている者にとっては、細かなところが気になるものの面白い視点だと思いました。
清滝駅の建替え計画では、2年生と思えない、構造・景観を熟慮したものであり、プレゼンボードも見ごたえのあるものでした。3年生の山田侑奈さんの住宅もそのまま実施設計に入れる完成度でした。
ちょっと驚いたのは、佐藤優樹さんの作品。私たちの課題にはこのような課題はなく、この学年時に建築学科で、自由な表現を学ぶ事は、今後の進路に「気づき」を与えてくれるだろうと羨ましく思いました。今は亡きクリストを思い出しました。
総じて感じたのは、私が学生だった頃よりずーっと、皆さんが建築を自由に考え、わかりやすく伝えることができているということです。課題自体が魅力的なのかもしれません。
日本の未来は満更でもないと思う経験になりました。
アンドウ・アトリエ 主宰 田野恵利
審査委員:早津 毅(26期・Hayatsu Architects主宰、王立英国建築家協会会員、Kingston University 常勤講師、Westminster University external examiner)
イギリスの大学で教鞭をとっている立場から見ると、皆デザインを奔放に楽しんでいるなあという感想をもちました。イギリスの大学教育はリサーチが主流で理詰めに考えていく傾向にあり、逆にデザインの段階に入るのを躊躇する学生が多くみられます。日本の大学、特に武蔵美での教育は学生の想像力を精一杯伸ばすことに焦点を当てており素晴らしいとあらためて感じました。
皆模型を良く作り込んでおり、デザインのツールとして活用している様子も見て取れました。デジタル化が主流な昨今、素材に対する感受性を育む必要を日々感じております。工房や様々な素材に比較的容易にアクセスできる美術大学ならではの環境を大いに利用してどんどん楽しいデザインを広げていって欲しいです。
審査委員:吉野 太基(44期・アーキペラゴアーキテクツスタジオ)
総評
1-3年生の作品ということもあってか、全体的に感じたのは美大ならではのパーソナルな興味関心から形を想像していく方法が多く、とはいえそれらは手法論のような一言で語ることはできない多種多様なアプローチがあり、審査する側としても柔軟な価値観を持てるかどうかを試されているような場でもありました。昨今いつでもどこでも建築の情報が手に入れることができるようになり、かつ多様な社会情勢に合わせて手法や論理も多様化し、それらは以前よりもカタログ的に引用が可能になり、その結果としての建築作品も編集によって作られ、多様で複雑に見えるようで実は画一的なものが溢れているように感じます。そのような中で新しい建築を生み出して行くためには現代という今しか流れていない時間を生きる自分というものをいかに深掘りするかでしかないと考えています。もちろんその際に歴史的に見てそれにどんな価値があるのかを自己批評することも大切ですが、まずは自分の経験や価値を信頼することが重要なスタートになると思います。見させていただいた作品はその意味ではみなさんエネルギッシュにスタートを切ることができていると感じました。しかし、信じるべき自分をこれから形成していくのは、他者や環境、情報による影響がほとんどです。多様化と情報化は価値の氾濫を起こしますが、その中で大切になるのは、どうのように情報や環境を自分の価値観に従って選択していくかだと思います。自分を信じ、目を凝らし、どう成長していくのか。今回だけの評価に留まらず、みなさんの今後に期待を持つことができる豊かな時間となりました。ありがとうございました。
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昨日の日月会賞(武蔵美OBから在学生に与える賞)を終えて、応募してくださった皆さん、運営の皆さん、審査員の皆さんありがとうございました。短い時間の中で的確にコメントするのが難しく、少しずつですがそれぞれに改めてコメントできればと。(以下氏名略登録番号)
A1:断面的にカーブを描いた屋根が上昇性のある明るい空間と抑制の効いた低く暗い空間との二面性のあるギャラリーを共存、通り側からは人々が集う巨大なベンチのように働きかけ、取り巻く動線のレベル操作が秀逸で、シンプルながらシークエンスの中にヒューマンスケールを拒絶しない多様性がある。
A2:分棟形式の集合住宅で各棟をコモンスペースにもなる屋外動線が2Fレベルで走る。特徴である屋外動線の幅や高さ、室内空間との関係性、動線が庇のようになるGLでのアクティビティをもっと想像できたり敷地内高低差をもっと屋外動線と絡める計画だと良かった。力はあると思うので今後に期待。
A3:絵画教室併設の住宅。3つの家型が相互貫入する計画だがそれぞれ母屋、下屋、ドーマーのように見え、形による奇抜さはなく、室内に現れる軒先空間、切妻空間が居心地の良い空間を作り、屋根が内外を伸びやかに繋ぐ役割も担う。「屋根が好き」でその可能性を深掘りした手続きが好印象。
B1:平面的にカーブを描くボリュームが屋外に広場を、背面の矩形ボリュームと天高に緩急をつけて相互貫入することでボリュームの隙間から印象的な光を内部に作る。それ以外に建築を根拠づけるパラメーターがなく、人が集まるための・作品鑑賞の体験方法などの工夫が加わっていくと魅力が増すだろう
B2:中野の集合住宅。街の風景に合わせて4方向からの立面の見え方を造形的に変え、それによって生まれる内部空間にプログラムを与えている。画一的になりがちな集合住宅の立面を景観的に再編することは好感が持てるが居室プランが画一的なままで、ファサードの決定要因に外と中の呼応があると良い。
B3:付箋サイズの紙を水によってガラス窓を覆うように貼り、乾燥後に周りの人の動きや風の流れで紙が剥がれ、光の入り方が変わるインスタレーション。普段可視化されない空気の動きや光の移ろいを鮮明なものとしてくれる。身近な素材にとことん向き合ってスタディしており誰もが発見をしいられる良作
C1:ギャラリーで展示をすることが学生にとって個から公の存在へと変わる境界になるという発見から作られている。2つの動線体が交わる構成で作品を見る視点が変化に富むが、精神的な境界と空間が作る「境界を超える」という体験の結びつきが分かりづらかった。着眼点は面白いので今後に期待。
C2:プライベートを最小化しコモンを最大化した集住。コモンを一括りにせずプライベートとパブリックの間を細かく分類しそれぞれに合う空間を計画。コモンの解像度が高いことは評価できるが、空間の末端であるプライベート空間がパブリックと断絶しておりそこの関係性も深掘りできると良かった
C3:アフリカの民具や文化と共にある木造戸建てのリノベ。1F天井+2F床を同一素材を使った雲(串団子)状の抽象オブジェクトに変換させ、1-2Fのアクティビティやゾーニングに働きかける。抽象エレメントは民具の具象を対象化させるので良い選択、表現も秀逸。手法に既視感があり独自性が勝ると良。
D1:塔と平屋ボリュームを貫入させたギャラリー。前面に設けた滞留のための広場と流動性の高いギャラリーとの関係性が描けているとなお良かったが、塔の形状や平屋の壁の配置・開口方法など純粋に空間の魅力を深掘りしようとしている点に好感。
D2:カーテン状折板ファサードと門型フレームによって構成された集住。その二つの関係性やそれらが作り出す空間の特徴がどういったメリットをもたらすのかが見えづらかった。センスで形から作り始める手続きは否定しないがその先に何があるのかを自覚的に探ろうとしている姿勢があると良かった
D3:足し算で作ることを試みた住宅で可変性のある床や家具建具で機能を動的にしている。採用している手法がそれぞれ素朴なもので、機能の変化も単調なものに見えてしまった。すでに一般化した家具建具の効力を用いながらも、一般化されていないここだけの空間やその利用法が垣間見えると良かった
E1:平面的にうねる帯状の壁とガラス張りの箱が相互貫入し屋外半屋外屋内空間が連鎖。カーブが視線を誘導/空間の包み込み具合にバリエーションを作る。動的な帯に静的な箱を規定したのは適切に思えたがそれによって使えない空間も発生していたので屋根とガラスは別物として扱った方が良かったか?
E2:高尾山の木造駅舎。駅を山へのゲートと捉え2棟ボリュームの間隙が山を象徴的にフレーミングする。ボリュームとホームを含めてレシプロカル構造の大屋根が大スパンで覆う。構造の組方など熟度高い提案だがゲートと大屋根がミスマッチで部材数の多い屋根は天井仕上げても良かったか?
E3:熱海の大規模ホテルの計画。豊かな地形を活かすべくメガストラクチャーによって客室を宙吊り/ペリメーターの構造材を最小限にビューを確保。一つ一つの解は正当性があるがスケールがやや暴力的で、地形の起伏に合わせたスケール操作、客室を単なる群として扱わず細やかさがあると良かった
F1:公園内のカフェ。雑木林/遊場/動線/小川/住宅街/空など雑多な要素を整理してフレーミング、いくつかの特徴ある空間を作る。それらが一つに卒なくまとまっており好印象だが、副産物的にできている場所の魅力や効果について無自覚な点があり、作った後の建築にも向き合い発見していってほしい
F2:高尾山の木造駅舎。細かい格子で作られた立方体を断面方向に45°傾け連結し、森と親和性のある外観を作り、内部空間を木漏れ日のような粒子状の光で満たす。そこまでは評価できるがそれ以外の計画的な部分や意図せず現れている魅力に無自覚さがあり、これも事後的な発見があると良かった
F3:神宮前のストリートカルチャー資料館。プログラムに対してホワイトキューブを選択しておりそれが議論の的になってしまったが、本人がやりたかったそこ以外の工夫の魅力が伝わりづらく議論が横滑りしてしまった。設計力は誰もが認めるがそこに留まらずキーポイントをもっと分かりやすく。
G1:八王子セミナーに研修施設を作る課題に対してモニュメンタルな塔を建て飛行船の発着場を兼用する案。飛行船で描く作者の世界観、それを押し通すタフさは良いが、課題の性質を読み解きもっと吉阪隆正の世界観を真面目に勉強した上で自分の世界観を拡張してほしいと先輩としては思う笑
G2:高尾山の木造駅舎。プログラムを正面から読み解き素朴な架構でナチュラルな場所を作っており、審査員によって評価の別れた案。問題に対して解いていく姿勢は好感持てるが、まだ気づかれていない問題点を発掘し、それを丁寧に解いていくことができれば、予定調和性を超えられると思った
G3:高架下/敷地/車道/敷地/公園を青木さんの「地下横断体」を彷彿させるスタジアムのような断面で地下と地上で結ぶ図書館。段々形状を活かし異なる要素をおおらかにつなげようとする(そのために膨大な検討を積んだであろうと分かる)点が良かったが、高架を遮蔽しているようにも見えたのが残念
H1 :八王子セミナーの研修施設。八角形平面で1Fを絞った2階建ての小ユニットを群造形的に配置する計画は山のきのこのような様相で微笑ましく上手く地形にも対応しているように見えるがユニットが画一的で内部から外部への呼応が伺えず群造形を活かした半外部の操作にもやや無自覚だったのが惜しい
H2:キャンパス内のドライエリアに高さ6m(天端GL±0)の土の柱を立てる。過去に人為的に掘られた地下に応答するインスタレーション。環境化することで透明化する物質の質量や時間、運動のエレルギーを可視化/追体験させられるような作品で好感を持った。柱の表面が断面に見立てられるのも良い。
H3:地形を読み取り空間的な特性を建築によって顕在化。すり鉢状の地形に包み込むようなおおらかさを見いだすのは良かったが、半円形幾何学の建築を計画することで本来感じていた地形の豊かさがキャンセルされているようにも見えた。壁の高さやボリューム端部の工夫で印象は大きく変わったかも
審査委員:大山 啓(35期・TATO DESIGN株式会社 代表・日月会執行部)
本年度は初めて3月開催で、1〜3年生対象(例年は7月開催、3年生対象)の開催でした。結果だけ見ると3年生が各賞受賞ですが、1年生の頑張りも印象に残りました。学年が上がると共に考察と表現が深く絡みあい、個性ある作品に仕上がっていると感じました。学生にとっても、普段交流の少ない多学年のプレゼンを聞いたり、作品を注意深く見たりする事は貴重な経験になったと思います。