第25回 日月会建築賞
2023年度
開催情報
開催日
2024年2月4日(日)
審査員
審査委員長
田中 匡美 | 36期/一級建築⼠事務所サンゴデザイン 共同主宰・第8回「長尾重武賞」受賞 |
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審査員
鈴木 竜太 | 36期/一級建築⼠事務所サンゴデザイン 共同主宰・第8回「長尾重武賞」受賞 |
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小林 康夫 | 11期/設計事務所主宰 |
浅利 幸男 | 27期/ラブアーキテクチャー一級建築士事務所主宰 |
萩原 秀規 | 40期/ハギアーキ一級建築士事務所主宰 |
エントリー作品数
10作品
太陽賞受賞作品
反転する収蔵庫
諸江 ⼀桜
受賞のコメント
この度は日月会建築賞を開催していただきありがとうございます。この提案では都市に隠蔽された土木構築物と建築の関係についてひたすら考えました。このような評価をいただけたのは、ご指導いただいた先生方のおかげです。また満月賞を受賞された鈴木さんとは隣の席で互いに相談しあいながら設計を進めてきたのでここまで走りきれたことは嬉しいです。これからも精進します。
満月賞受賞作品
間の家
鈴木 碧恋
受賞のコメント
この度は貴重な機会を設けていただき、ありがとうございました。満月賞をいただけたことはもちろん、この機会に向けてブラッシュアップするために有意義な時間を過ごせたこと、とても嬉しく思います。太陽賞を受賞された諸江さんと切磋琢磨しあいながら設計に取り組むことができました。指摘していただいたことを中心にこの作品をより良いものにし、今後の作品に繋げていけたら良いなと思います。
三日月賞受賞作品
段々ギャラリー
猪鼻 真也
受賞のコメント
この度は三日月賞をいただき、大変光栄に思います。
日月会建築賞は、何度も同じ作品をプレゼンし、その度に先生方からコメントをいただきます。最初はうまくできなかったプレゼンも、最後には落ち着いて話せるようになりました。
「プレゼンは聴いてもらう人へのプレゼント」との先生の言葉が印象的でした。
また他者の視点から作品を再評価してもらい、自分では気づかなかった作品の魅力に気づくことができました。OBの皆様、ありがとうございました。
新月賞受賞作品
+VEG
江口 颯哉
七夕賞受賞作品
庭の家
鈴木 隆之介
受賞のコメント
今回の日月会建築賞を通じて多くの学びを得ることができました。その成果として七夕賞にこの住宅を選んでいただき、ありがとうございました。大変嬉しく存じます。5人の審査員や諸先輩方の批評はどれも被っておらず、建築の多様な解釈と自由さを感じることができました。またアドバイスは、自らの設計に対する理解を深めることができました。まだまだ不十分な設計だと感じていましたが、有り難く頂戴いたします。ありがとうございました。
審査員評
審査委員長:田中 匡美(36期・一級建築⼠事務所サンゴデザイン 共同主宰・第8回長尾重武賞 受賞)
「日月会建築賞の審査会に参加して」
太陽賞 諸江さん、満月賞 鈴木さん、三日月賞 猪鼻さん、新月賞 江口さん、七夕賞 鈴木さん、受賞おめでとうございました。
参加された学生の皆さんは、オンライン審査会での8時間に渡る先輩たちとの時間はどうような時間で、どのような気持ちを抱いたのでしょうか。学生にとって多様な大人に対し、自分の分身となる作品を発表することは勇気のいることだと思います。まず、そこに自らエントリーして発表されたこと自体を私は高く評価したいです。先輩側である私自身も、学年や課題内容も異なる作品に評価を与えていくという、とても悩ましい状況で、手元のエスキス帖に『荷が重い』とメモってしまいました。
私も3年生の時に「第3回 日月会賞」にエントリーしました。「まちやをつくる」という保坂先生の課題で、その時の自分の力を出し切ったと思える大切な作品で挑みました。結果は散々でした。当時は学校で審査会が行われていて、諸先輩たちに言われたことや、その教室での風景、講評されながら悔しくて涙が滲んできた気持ちを今も本当によく覚えています。
3年生はさすが上級生という作品たちでした。他には今回のエントリーの中で設計計画Ⅱ/小規模集合住宅からエントリーした2年生の島川さん、宮下さん、松本さんの作品が心に残ったことをお伝えしたいと思います。他の1,2年生も粗削りだけど、課題を面白がって立ち向かったキラキラとした素晴らしい作品だと思いました。そのキラキラした気持ちを忘れずに手を動かして、面白がって時々色んな先生や同級生や先輩に話を聞いてもらい、課題に取り組んでいける事をこれからも続けていって欲しい、そして来年もそういった作品を作り続けていって欲しいと思います。
最初に『荷が重い』などと書いてしまいましたが、皆さんの沢山の考えや作品に触れていると自分が学生時代に課題に立ち向かっている感覚をもう一度味わっているような、なつかしい時間になりました。日月会の皆様、学生の皆様、本当に貴重な経験をさせて頂きありがとうございました。
審査委員:鈴⽊ 竜太(36期・一級建築⼠事務所サンゴデザイン 共同主宰・第8回長尾重武賞 受賞)
第25回日月会建築賞に審査委員として参加して
私は日月会執行部の一員として、ここ数年この日月会建築賞の運営に関わってきました。今年度は長尾重武賞をありがたく頂けたことから審査委員としても参加することになりました。運営に関わってきて毎年思うことは、この賞の意義や素晴らしさです。それは、OBOG(先輩)による大学とは異なる視点からの審査や、何度も繰り返されるたくさんのプレゼンと大量のコメントや質疑、学生参加型の公開審査などです。新型コロナによって学校開催からオンライン開催に変更されましたが、オンラインになってもこれらの良さを無くさないように執行部内で模索し、このオンライン審査会の仕組みができました。さらに昨年度からは、1,2年生も参加できるように変更し、後輩が先輩のプレゼンを隣で聴ける機会や、他学年の作品と同列に並べられて比較されることなど、参加学生にとってこの審査会自体がより刺激的な時間になるように意図されています。今年度も濃密でとても素晴らしい会になったと思います。参加された学生、OBOGの皆さま、大変ありがとうございました。
参加された学生の作品はどれも素晴らしく、設計課題への真摯な取り組みが伺えました。短いプレゼン持ち時間の中で、何を見せて何を喋るか。作品の意図や魅力を伝えることの難しさを直接肌で感じたのではないでしょうか。長時間に渡るこの体験から何かしらの気づきや発見があったと思います。ぜひここで得たものを今後の卒業設計や設計課題に活かしてもらえたら、武蔵美OBまた日月会執行部の一員として嬉しい限りです。1,2年生は、ぜひ来年度の参加もお待ちしております。一年間の成長を先輩たちにぶつけてください!
鈴木竜太
審査委員:小林 康夫(11期・設計事務所主宰)
第25回日月会賞審査を終えて
素晴らしいプレゼ審査の機会をいただきありがとうございました。今回のプレゼに参加された意欲ある学生さんと、素晴らしい作品を見せて頂いたこと、そしてこのZOOMリモートでの興味ある審査の仕組みや大変な準備のために尽力された日月会執行部の皆様に感謝いたします。
今回私は作品に託した想いや夢を、いかに皆様に伝えられるのかというポイントで審査させていただきました。想いは課題解決への強い意志であり、その解決手段としての建築の仕組み創りへの、足を踏み入れる前提の夢だと考えています。建築の空間提示による課題解決に、一歩でも近づきたいのが私たちの使命であり、与条件を超えて周辺地域を含めた、環境、歴史、文化、社会を背景とした、自分なりのキーワードの発見とストーリー創りで私達は所謂腑に落ちる解を得られる努力を惜しんではならないでしょう。
今回の審査での驚きは、課題を忠実に理解し設計作業を進める、充実したプレゼが多数ある一方で、何か柔軟で大胆な、自分なりの構想プレゼがやや少なく、物足りなさを感じたことです。現代の社会状況がそうさせつつあるのでしょうか、想いは、図面化作業は勿論、協業すべき構造計画等よりはるか前段で確立しておきたい夢なのです。想いがなければ、ただただ設計者として既成概念の中で踊らされるだけになってしまうのは、経験値として明らかでしょう。
結果として、流石に3年生はプレゼにかける時間もさることながら、1、2年生よりも作品に考察の深耕が図られているように感じました。その中でも太陽賞、諸江さんの「反転する収蔵庫」は地下にある舟入インフラの想いと、収蔵庫からミュージアムへという、授業で学ばれているグラデーショナルな振る舞いを見事に結実させた案で、抜きん出た作品となりました。満月賞の「間の家」も明快なコンセプトによる空気感の獲得と、斜面地克服への課題解決のできた作品でした。今後はよくある仕草を超えて、より伸び伸びした発見による作品創りに期待しております。三日月賞の「段々ギャラリー」は地域の記号を読み取り、谷間に都市を矮小化した空間を設定されましたが、今後の飛躍を望み、コミュニケーションの素晴らしさを学んでいただきたく評価させていただきました。
江口さんの「+VEG」も勇気ある中間領域の貫入だったし、薗部さんの「stay with books」での図書館とホテルの共存の意味や想いが伝わらなかったことも、共に残念でした。大西さんの「触媒」については、魅力ある吉阪建築に範を求めるのは、私世代の心をくすぐるものではありますが、是非、今社会における大西さんの八王子セミナーハウスの再生を目論んで欲しかったところです。
全般的に最近の傾向でもありますが、単体の建築空間計画はありえず、都市であれ田舎であれ、周辺の環境、状況を十分読みこんだ計画が望まれます。想いはそんなところにも潜んでいます。今回この審査会を通じて「グラデーショナル」という高橋先生のうつろう言葉についても学ばせて頂き、参加学生さんのみならず、私にとっても有意義な時間を過ごさせて頂き、大変ありがとうございました。
審査委員:浅利 幸男(27期・ラブアーキテクチャー一級建築士事務所 主宰)
『心のフックについて』
2023年日月会建築賞では大変お世話になりました。審査では少しづつではありましたが、様々なお話をさせて頂きました。認知科学・現象学・アフォーダンス理論、建築は情報をコントロールするメディアであること、1つの開口部に全ての役割を負担させる必要はないこと、リノベーションでは操作した部分によって、操作していない部分の意味を変換させることができること、日本人の山岳信仰、深山/里山構造、自然と造園の違い、人文科学・社会科学としての建築意匠/自然科学としての建築構造、企画と設計の違い、土木的スケール/ヒューマンスケール、日常性/非日常性、読書は孤独な行為であること等…随分と建築から脱線することもありましたが、建築学とは本来、学際的なものなのです。
私が中学から高校に進学する時に、当時の学園長が訓示として、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』を引き合いに、全体主義の恐ろしさと自由の尊さについて話してくれました。私はその後『1984年』を読み、言いようのない恐怖感を覚えました。武蔵美大では長谷川堯先生の『ガウディ建築はチューブだ』という言葉が心に刺さり、その後、先生の著書『神殿か獄舎か』を読みました。こうして私の学びの回路が開かれたのです。
良き指導者は私たちをモヤモヤさせ、感情を揺さぶり、学びの回路を開きます。私は偉大な先達の足元にも及びませんが、先日の私の言葉が、少しでも皆さんの『心のフック』になれば幸いです。
浅利幸男
審査委員:萩原 秀規(40期・ハギアーキ一級建築士事務所 主宰)
今のムサビ学生の思考や姿勢を知るいい機会であると同時に、ムサビ建築卒業生による講評を当事者として聴き比べられることのできる貴重な立場として、今回の審査員を楽しみながら受けさせて頂きました。関係者のみなさま大変ありがとうございました。
1次審査は少人数の審査グループと学生グループに分かれてグルグルと移動する審査スタイル。学生は緊張の中2分のプレゼンをしてはコメントをもらい、すぐさま次の審査員グループにプレゼンをして…と繰り返し、さながらぶつかり稽古のような雰囲気で刺激的な体験だったのではないのかなと思います。審査側も課題の違い・様々なアプローチに柔軟に応答して確実なコメントを求められ、こちらも試されているような場として緊張感を持って取り組ませてもらいました。
学生の作品は全体的に敷地やプログラムの本質的な考察から形へ想像していく過程が見受けられ、優秀な作品が多かった印象です。それは同時に課題の面白さが浮いて見えてきたことなのかとも感じました。すこし期待していた個の興味から造形を進めていく作品をもう少し多く見たかったなという個人的な感想はそっと置いておきます。
卒業してよく思うことですが、美術大学というムサビ特有の環境はとても尊く、学生の皆さんには学生時代にしかできない様々な価値観にふれる機会を大事にしてもらいたいなと思います。ムサビ卒業生の自戒の念を込めて。