芦原賞・竹山賞授賞式2

授賞式の会場ではそれぞれのプレゼンテーションボードが展示され、選考評が掲示されましたので紹介します。

芦原賞受賞作「波動」(肉・鉛・地)藤井 博

審査委員長長谷川堯名誉教授 による審査総評

今年の芦原賞への応募件数は前年に比べてやや少なかったが、応募作はいずれも力のこもった内容を示すものであった。
それらの中で、内容、実績ともに特に抜きん出た仕事として注目したのは、「藤井博作品・集1970-1991」の中に的確にドキュメントされている、藤井博氏の40数年に及ぶ造形活動の内容であり、従来の美術作品のプレゼンテーションの一般的な手法や枠組を打ち破る、きわめて空間的で場所的な表現手法の軌跡であった1970年代、まだこの種の用語が使われる以前の段階から、現在使われている言葉で言う<インスタレーション>にあたる試みを藤井氏は先駆的に意欲的に展開してきたといえる。しかしそれらの彼の一連の作品は、もののダダイスティックな投棄に終わるのではなく、ものと、それを置く行為と、それを視ることの中で生ずるある表現的な広がり、つまり単なる造形の領域を超えた、特異な<空間>表現の具現化が目指されていたはずであり、それこそが現代の建築や都市の空間とに呼応する、ある特別の表現世界の創出を可能にしたと思われる。

竹山賞受賞作「たがわ眼科クリニック」竹中 健次

竹山賞受賞作「安曇野穂高交流センター みらい」岡江 正

竹山実名誉教授による審査選評

竹中君は金沢で事務所を開き旺盛な活躍をしている人で、このコンテストのいわば常連です。毎回のように面白い作品を送ってくれます。今回は金沢市内の高台に建てられたクリニック併用住宅ですが、住まいと仕事の場を明快に分離する単純な空間構成がとても分りやすく、それが外観の手掛りになっています。なによりも最上階の居間やバルコニイからの眺めが秀逸です。それがこの作品のすべてを示します。
一方、岡江君の作品は地方のコンペに共同作業で応募し、選ばれて実現に結び付けた仕事のようです。この種のコンペにありがちな難しい現実の問題を乗り越えて実現したのでしょうが、ここには地元の土の香りのようなもの濃く残されている点にぼくは強く惹かれました。とりわけ入口のある北側外観には単純なモチーフが生き生きと活かされていてそこに好感がもてます。ここでは広い意味を放つ暗喩が外観の下敷きになっています。この人は環境技術を豊富にもっていますが、それだけでなくこうした表現性が技術主義の上に成立しているように見えます。
いうまでもなく金沢も安曇野も日本の地方文化の拠点に位置しています。これら2つの案の共通項は、その地ならでは特異性に挑むことがその表現性のもとになっている点にあると思います。日本では地方主義が叫ばれて久しいのですが、なかなか地方のもつ特異性を文化創造のレベルに十分に活かしきれていないようです。実は「建築」がもっとも地方の特異性とかかわりを持つべきでしょう。方法は互いに違っていても、二人の狙いは共通していて、それぞれの表現性は賞賛に値するものだとぼくは考えました。
上記の作品以外にどうしても触れておきたい応募案がまず2つあります。「The Biker’s Apartment Project」(更田邦彦君;1983年卒業)と「境界に関する建築的考察、連作3作;コンセント、モンタージュ、スピンオフ」(小泉一斉君1996年/千葉万由子1998年卒業)の応募案です。前者は南側に大きなテラスを持つことで共同住居の本来の意味を取り戻したいとする作者の意図が良く伝わる作品です。後者の住宅3連作は何れも意図が明快で、その美しい空間構成に大変共感がもてます。最後に「市川新田 春日神社 社殿」(田村恭意君1994年卒業)について一言。ここには田村君の(ぼくが知る限りの)過去の経験が充分に生かされていて、正に頭の下がる作品です。これからもますます健闘を期待します。

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